課題は残しつつも、「田亀作品」に挑んだNHK、グッジョブ!「弟の夫」(TVふうーん録)

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 田亀源五郎という漫画家の作品を詳しく知ったのは、今から10年前。ある人から「彼の漫画が欲しいんだけど、親にバレたくないから、こっそり買ってほしい」と言われた。アマゾンでポチって翌日到着。先に読ませてもらう。薄々聞いてはいたが、容赦なく精緻な肉体描写とハンパないド迫力に魅了された。「PRIDE」という作品である。無事に届けた後、その人から「もし私が死んだら、この本を即刻処分してほしい」と言われた。その人とは、何を隠そう姉である。もうここに書いちゃったし、隠す必要もない。姉妹揃って田亀源五郎LOVEであることを公表する。姉の死後は、喜んで私の蔵書にしたい。

 さて。我々が好きな田亀作品とは毛色の違う「弟の夫」がドラマ化した。やっぱNHKだよなぁ。原作のもつ空気感とメッセージ性をしっかり踏襲しつつ、映像化には細かい配慮を施す。もし民放局がやっていたら、ここまで良質なドラマにはならなかっただろう。ただし、文句がひとつある。

 なんで全3回なのよ。「女子的生活」も全4回だったし。この短さでは、原稿を書いて掲載されるころには放送が終わっている。焦って書くことになっちゃう。民放局なんかクッソつまらないドラマを9回もやってるのに。私怨はさておき。

 物語は双子の兄が主人公。主演の佐藤隆太は、なんていうか、二枚目やっても三枚目やっても、どうにもこうにもパッとしない俳優なのだが、今作は非常に素晴らしい。ゲイの弟が亡くなり、その夫であるカナダ人のマイク(把瑠都)が日本にやってくるのだが、戸惑いと心の奥底にある偏見、そして弟に対する自責の念を見事に表現している。

 佐藤は、妻(中村ゆり)と離婚し、一人娘(根本真陽)を育てるシングルファザーだ。仕事はしていない。親が残してくれた不動産の家賃収入で生活できている。男としての欠損感を抱えつつ、父親としての矜持(きょうじ)も保ちたい。この設定も絶妙だ。

 初めは、娘や近所の人に対して、マイクを「弟の夫」と紹介できなかった佐藤が、短期間一緒に暮らすうちに変わっていく。生前は疎遠だったが、マイクを通して弟の心根に触れていくことで、偏見を持っていたのは自分だったと気づくのだ。

 もちろん、偏見をもたない娘の素直さや、元妻の寛容さとおおらかさにも助けられる。子役の根本は原作にかなり近く、さすが子役発掘が得意なNHKだなと感心した。中村も、佐藤とさりげなく性欲解消する茶目っ気をもつ元妻を好演。

 実はこれを書いている段階では、最終話を観ていない。原作通りならば、ゲイであることをカミングアウトしていない同級生(野間口徹)や、娘の担任教師(大倉孝二)と対峙し、佐藤はさらなる気づきを得るはず。

 ひとつ懸念があるのは、ゲイを清く正しく美しく描きすぎるのはどうかという点だ。お手本になるような人ばかりでは息が詰まる。そのへんは海外ドラマのほうが断然フラット。普通に意地悪なゲイも登場するし。そこは、今後のNHKの課題ではないかと思うんです。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年3月29日号掲載

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