【今夜最終回】井浦新の回想シーンを彩る「米津玄師」の名曲 「アンナチュラル」第9話

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中堂と恋人・夕希子の過去

 しかし今回の見所は何といっても、中堂と糀谷夕希子(橋本真実)の出会いから、別れまでが描かれた10年前のシーンだった。仕事帰りに中堂が立ち寄った食堂で出会った2人。その後、仲を深めて、ピクニックに出かける2人。サンドイッチを口いっぱいにほおばり、幸せそうな笑顔を見せる2人。「食事」のシーンが、本作では生きる力の象徴として描かれていることは言うまでもない。恋人の死から、中堂は二度と幸せな食事をすることができなくなったのだと思うと、涙が止まらなかった。

 夕希子の描いた初めての絵本「茶色い小鳥」では、小鳥が死んで、最期に綺麗な花になる。「寂しい人生でも最期くらい花になったらいいじゃない? あったかくて、いい匂いがする場所で綺麗な花になれたら幸せだと思わない?」と言っていた彼女は、無惨にも殺され、スクラップ置き場に捨てられていた。解剖に際し、夕希子のまぶたを閉じてやった中堂。解剖を終え、夕希子の顔に触れ、ひとりでくずおれた、若き中堂の手の震え、嗚咽。彼はどれほどやるせなさ、悔しさ、容疑者としての嫌疑をかけられて遺族に責められる辛さを抱え、生きてきたのだろう。

 久部が受け取った宍戸からの封筒には、中堂の殺された恋人・夕希子の新作絵本のイラストが入っていた。それを見つけた中堂は久部に「誰にもらったんだ!」と迫る。第8話の火事の唯一の生存者である不動産屋の高瀬が事件に深く関わっている……そのことを知った中堂は高瀬のもとへ走る。その頃、アルファベットの表(女性を26人殺し終わった?)を完成させた高瀬は、宍戸とともに1枚記念撮影をおこない、女性たちの遺品にガソリンをかけて燃やした。その後彼は警察へ赴いて「殺されそうなので保護してください」とのたまうという、衝撃的な場面で第9話はラストを迎えた。

 高瀬の家にたどり着いたものの、高瀬を見つけることができず、中堂は腹の底から悔しさを滲ませ、叫ぶ。筆者が、中堂を演じる井浦新(旧芸名:ARATA)の作品を初めて観たのは、若松孝二監督の映画「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」での革命左派、坂口弘役であった。仲間同士での凄惨なリンチの果てにあさま山荘事件を起こし、そのリーダー格であった坂口を演じた井浦新の迫力は未だ脳裏に焼き付いている。当時の彼の、秘められた狂気、抑え込まれた激情が溢れ出た時の、足の竦むほどの迫力を、今回の第9話ラスト、燃える遺品を見つめながら咆哮する井浦を見て思い出した。「アンナチュラル」の中堂役で井浦の魅力を再発見した視聴者には、重く、大変につらい内容の映画ではあるが、ぜひ一度観てほしい。

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