63億円を騙し取られた積水ハウス 増加する不動産詐欺、「地面師」たちの手口とは

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「裕福な老婦人」の演技

 たとえば、2011年に東京・杉並区浜田山の駐車場を舞台に2億5000万円が騙し取られた事件では、「渡邊」という72歳(当時)の老人が地主を演じている。

 その供述によると、

〈(不動産関係者から)地主役をしないかなどと持ち掛けられました。私は、この話を聞いて、土地の所有者のふりをして土地を売却するか担保に入れるかして金を騙し取る話だと分かりました〉

〈(中略)地主のふりをすれば、1000万円くらいの報酬になるのではないかと思い、この話を引き受けました〉

「渡邊」は喫茶店で地面師による“面接”を受け、合格を告げられる。ニセ地主といっても演技力が必要だからだ。

 積水ハウスを騙した女性は、別の購入希望者に対し白いワンピースに真珠のネックレス姿で、「昔から、このあたりの地主でしたが、身体を壊してから墨田区のマンションに住んでいるんですの」、「早く不動産を処分して施設に入りたいわ」などと、裕福な老婦人を演じて見せている。

 また、一昨年、中野区弥生町の不動産を舞台に起きた事件では、物件を確認しに行った不動産関係者が、家から出てきたニセ地主とばったり出くわすという“芝居”もあった。

「後から考えれば、ニセ地主は偶然を装って、やって来るのを待っていたのです。その男は、地主然として地元の工事関係者と雑談にも興じていた。あんなものを見せられてしまったら、誰も偽者だとは思わんでしょう」(別の不動産関係者)

 そして、地面師詐欺をやるうえで最も重要なのが、書類の偽造だ。

「私たちの間では偽造を得意とする地面師を『偽』の部首から“にんべん”と呼んでいるのですが、まさににんべんのエキスパート。作るのはニセ地主が写った本物そっくりのパスポートや印鑑証明、健康保険証など、不動産登記済証(権利書)も必要です。彼らは偽造と知ったうえで仕事を引き受けてくれる地方の印刷所や司法書士などにネットワークを持っている。そうした中には、カレー屋の上に作業場があることから“カレー屋の△○”などといった仇名を持つ名人もいます」(先の捜査関係者)

(下)へつづく

週刊新潮 2018年3月8日号掲載

特集「地価高騰で見せつけた『地面師』たちの『お大尽遊び』実況中継」より

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