田中邦衛は“洗練されてない不器用さ”を演じていた? 「せんだみつお」が語る昭和のスター列伝

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あの口調は演技なのか?

せんだ:まあとにかく、いつもそんな感じだったことを考えると、邦さんが尊敬する高倉健さんじゃないけど、常にご自分のイメージを保とうと意識してたってことなのかなとも思うんだ。やっぱりスターってそういうもんでしょ。

――田中邦衛さんは“スター”なんですね。

せんだ:そりゃスターでしょう! 小林正樹に黒澤明、岡本喜八と名だたる監督たちに求められて、昭和を彩った代表的なシリーズものにも軒並み出演して、しかも脇でありながらどんな作品の中でも必ず強烈な印象を残す。で、「北の国から」からは、個性派のバイプレーヤーから主演も張れる役者になって、山田洋次監督なんかにも重用されて。そのうえその間もずっと、あの健さんの相棒で居続けた人なんだから! 

――幅の広い活躍ですよね。昭和の映像史の重要なところをほとんど網羅しているともいえるくらいの。さらには、口調をマネればそれが誰であるか、すべての国民がわかるという。

せんだ:それもスターの重要な条件だよね。新劇の舞台を踏みながらスクリーンで名を馳せていって、同時にテレビドラマにも死ぬほど出てお茶の間の人気者にもなってね。CMに出ても強烈だったしな。

 そんな邦さんが「オレにはよぉ、ひとつ、絶対来ねえ仕事があるんだよぅ。それはな……ナレーション」て言ってたのを覚えてる。まあ確かに来ないよな(笑)。

――声だけで存在感が、際立っちゃいますからね(笑)。笑ってますけど、せんださんも怒られたそうじゃないですか。

せんだ:「破れ新九郎」のときね。収録の後に呼ばれてさあ、「おまえのセリフはよぉ、ぜんっぜん聞き取れねぇんだよっ!」って。(あなたが言いますか……?)って思ったけどね。でもさ、もしかしたらあの独特の滑舌も、意識的につくってる部分はあったかもしれないよね。だって「椿三十郎」(62)の邦さん、見たでしょ?

――若侍衆の一員というにはちょっと違和感のある、若侍役で。

せんだ:あのとき邦さん、30歳ぐらいだからしょうがないんだけどね。まあ、もともと老け顔だから、もっと若い頃にあの役をやっても、若侍? と思っただろうけどさ。だって、中学校の修学旅行のとき、「あなたが引率の先生ですか?」って言われたっていうんだから(笑)。

――ああ、言われてみれば、「椿三十郎」の邦衛さんの喋りはふつうですね。同じ黒澤作品でも「どですかでん」(70)では例の口調に戻ってますが。

せんだ:そうそう。だからふつうに喋ることもできるんだよ。でも、だからといってあの口調が、完全につくったものとも思えないんだよね。たぶん、あの喋り方が、邦さんにとっていちばん楽だったってことじゃない? それを動きも含めてちょっと強調したのが「若大将」シリーズ(61~71)の青大将役で、これが大ヒットして邦さんの出世作にもなったもんだから、役者として個性を出すためにコレでいこうと決めた――って可能性もなくはないよね。

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