天声人語が喝采も… 宇宙事業どころではない「イーロン・マスク」

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〈……多くの人にとって火星移住は冗談のままだろう。米国の企業家イーロン・マスク氏をのぞいては〉

 と、朝日新聞のコラム「天声人語」が書いたのは、2月10日のこと。

〈彼の会社が巨大ロケットを打ち上げた。ベンチャー企業から始め、米航空宇宙局(NASA)の現役機種をしのぐ規模を実現した。人類存続のため宇宙への進出が不可欠だとして、100万人の火星移住計画を掲げる〉

 イーロン・マスク氏とは、電気自動車(EV)の生産販売を行う米テスラ社CEOのこと。20代で起業し46歳の現在の総資産は、時価総額にして204億米ドル(約2兆2000億円)。ベンチャー界の風雲児とまで呼ばれる。

 彼が6日、自ら設立した宇宙輸送関連会社から赤いEV搭載の大型ロケットを発射し、火星探査に向かう軌道投入に成功。それを、大いに称えたのであった。

〈妄想家に資金や技術を提供する人がいて、妄想を現実にし続けている▼もし今の日本にそんな若者がいたらと考えてみる。冷笑の前に刮目(かつもく)して話を聞く大人が、どれくらいいるだろうか〉

 と、得意の慨嘆調で締めくくる。

 しかし、いかにも間が悪い。ロケット成功の報の翌7日には、マスク氏の本業であるテスラ社の2017年度通期決算が発表され、最終損益マイナス約2150億円、過去最大の赤字と判明したのだ。

 自動車業界に詳しい経済ジャーナリストはいう。

「高級なEVばかり手がけていたテスラは、昨年から安価な量産型『モデル3』というEVの生産を始めました。でもこの生産設備に不備があり目標台数に全く追いつかず、開発や設備投資に回せる収益が確保できない状況。損益発表の翌日には、テスラの株価は2割も落ち込みました。これまでも綱渡りでしのいできた資金繰り、下手するとファイナンスが集まらず立ち行かなくなる怖れも十分ある。マスクは今、宇宙事業などにかまけている暇はないはずですよ」

 この際、刮目すべきは、まず現実に対してでしょうね。

週刊新潮 2018年2月22日号掲載

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