「野際陽子」一人娘が語った母のスパルタと父「千葉真一」の十字架

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バシッと裏拳

 スパルタママである。

「叩かれるのもしょっちゅうでしたよ」

 真瀬が続ける。

「横に座っているから、裏拳(うらけん)。夜中の11時に勉強を始めさせられて眠くて仕方がない時も、ウトウトしていればバシッと手が出るんです。勉強だけでなく、ピアノも水泳も母に通わされ、小学校の時は、私は週6で習い事をしていた。あまりに疲れて、休みの日は半日以上は寝ていましたね。小学生で、家出することを考えたこともありました」

 そんな強い母、そして父と同じ俳優の道を、真瀬は志した。

「5歳の時から役者になりたかったのですが、母はどうしたわけか、認めてくれませんでした」

 自らが味わった苦労を、愛娘にはさせたくなかったのだろうか。それでも同じ道を選んだ真瀬。すなわち、親と同じ「十字架」を、自ら背負ったことにもなる。

「父と母がいつも一緒にいて、離婚もしないで、という家庭と比べると、うちは随分違った。私には、普通の家庭の感覚がわからないのかもしれません」

 野際が亡くなる直前のこと。真瀬が病院に見舞いに行くと、ベッドに寝ていた野際が急に横から彼女を抱き寄せてきたという。

「思わずポロポロ泣いてしまって……。しばらくして動こうとすると、行くなという感じで離さない。相当弱っていたはずなのに、その力がすごく強くて、こんなに力が出れば大丈夫、と声をかけましたが……」

 野際が息を引き取ったのは、その1週間後のこと。

 厳しさに愛情も併せ持った、最後の「母」としての姿であった。

週刊新潮 2018年1月4日・11日号掲載

ワイド特集「犬も歩けばドッグ・ファイト」

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