高野山に「日産自動車」「松下電器」「丸善石油」の墓? 知られざる企業墓の世界

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 和歌山県北部にそびえる高野山。2004年には金剛峯寺境内などが、そして16年には参詣道がユネスコ世界遺産に登録されたことで、近年は外国人観光客も足を運ぶスポットになっているのだとか。日本人にとってはお馴染みの山だが、ここに「企業墓」なるものが建てられているのはご存じだろうか。かの地で取材を続けるジャーナリスト・山田直樹氏の解説の下、その知られざる世界をご紹介しよう。

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 高野山には、主要地区のひとつ「奥の院」だけでも、20万基の墓が存在しているといわれている。多くは個人が眠る墓だが、これらとは別に、企業が建立した供養塔・慰霊碑などの「企業墓」があるという。

「国立民族博物館の名誉教授である中牧弘允氏が92年に行った調査では、高野山霊園には103基の企業墓があるようです。墓といっても、お骨が納められた“埋葬墓”ではなく、亡くなった従業員を供養する為に建てられた“詣り墓”です。先の調査によれば、比叡山にも26基の企業墓があるといいます」(山田氏)

 高野山にある企業墓の中で最古のものは、朝日新聞の販売・配達を大阪地区で展開していた「北尾新聞舗」のもので、建立は1927年9月だそうだ。名称は「物故店員之墓」。山田氏の調査によれば、これに「松下電器産業」や、「丸善石油」といった企業が続く。

 ほかにも「大和ハウス工業」や、さらには「森下仁丹」といった誰もが知っている企業の墓や石碑も。なかには“らしい”ユニークな形をしたものもあって、

「輸送機器製造企業の『新明和』はアポロロケットの形ですし、『ヤクルト』はあの容器の形をしている。『キリン』は麒麟の像が建てられ、アパレルの『福助』は福助人形、『日産自動車』は作業服を着た従業員の像。もっとも、これらのほとんどは霊園の墓石などの規則が定められる前に建立されていますから、今も同じような墓が建てられるかは分からないとのことです」

 ほかには「UCC上島珈琲」はコーヒーカップ形の墓石、「社団法人日本しろあり対策協会」には〈しろあり やすらかに ねむれ〉との碑が……。こうした企業墓、そもそもなぜ建てられたものなのだろう。

IT企業も進出?

 山田氏がいう。

「そもそもの由来については、よく分かっていないんです。墓をもつ企業のいくつかに尋ねても、明確な答えは返ってきませんでした。ただ、企業墓をもつことで、OB会や新人研修などで従業員がここを訪れる。会社として一体感を持たせる意味はあったでしょう。企業を“家”とする日本社会の風潮にあったものなのでは。墓を建てた創業者の偉業を偲ぶ目的、墓をもつステータスの意味もあるでしょうけれどね」

 と聞けば、サラリーマンの転職は当たり前、“愛社精神”なんて言葉も消えつつある現代には、ちょっとミスマッチな文化の気もするが……。それに、相次ぐ企業の倒産、合併。墓を建てても会社がなくなってしまっては……。

「それがいまどきのIT企業も、高野山への“進出”を狙っているというんですよ。観光客が増えたことで、霊園を訪れた人に自社のPRをする目的です。世界的にも企業墓というものがあるのは日本くらい。外国人は珍しがるでしょう。無くなった企業の例としては、『コニカミノルタ』になっても『ミノルタ』の企業墓はあります。OB会が毎年墓参しているらしく、『コニカ~』在職20年でこのOB会に入れるのだそう」

 ここまで読んで、ぜひ我が社も!と思ったそこの社長サン。お値段は「『奥の院』の一等地では20坪で3億円と聞きました」(山田氏)だそうですよ。基本的には墓じまいで更地になった土地を買う、“キャンセル待ち”の状態のようですが。

週刊新潮WEB取材班

2018年1月9日掲載

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