「あの子は私がいないとダメだから――」 52歳ひきこもりを支える81歳の母

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70万円を4日で使い果たした息子

 私の目の前に、和彦がいた。年齢より老けて見えるのは、歯がほとんどないからだろうか。話すと空気が漏れるため、言葉が聞きとりにくい。不自然なほどの間があり、話しぶりは幼い。知っていることや体験していることが非常に狭く、その分野だけを力説し、ちょっとでも異を挟むと瞬間、キレて激昂する。一つのことにこだわる傾向があり、話がなかなか先に進まない。支援員は懇々と話していく。

「キミはこの2年、ずっと家を出てアパートを借りて働くと言ってきたが、何も変わらないよね?」

 和彦も金の無心が難しくなったことを悟り、提案した。

「お母さん、俺、関西に戻るよ。そこで再出発するよ」

「本当に? じゃあ、これが最後よ。絶対に最後よ」

 幸子は支援員に内緒で70万円を工面して、敷金・礼金に充てるようにと和彦に渡した。しかし和彦はその金を4日で使い果たし、幸子の元へ帰ってきた。全てが嘘だった。ここでようやく、幸子は決意する。

 支援員が作戦を立て、幸子と和彦がデパートで食事をしている時に幸子をトイレに立たせ、そのまま、あらかじめ借りていたアパートに幸子を逃した。行き先は絶対に告げてはいけないと固く約束をさせてのことだ。ひきこもっていた和彦も、母の決断でいよいよ動き出さざるを得なくなった。

 前出のNPO法人代表の明石氏は、支援の現場で、何度もこのようなケースに出会ってきたという。

「どのお母さんも、息子をダメにした責任は自分にあると言う。甘やかしてきたと。そう言いながら、50になった息子を甘やかし続けるわけです。それ以外の関係が作れないから。お金をあげれば喜ぶから、それでいいとずっとあげ続けてきた。ダメなものはダメと教えない。それは面倒なことだから。親が子どもをコントロールできないばかりか、親自身が自分をコントロールできない。なまじ資産があり、そうできちゃうから」

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