朝日新聞の名誉棄損訴訟は「口封じ」なのか 元朝日OBの苦言

社会2018年1月6日掲載

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朝日新聞が訴えた

 西宮市長が新聞記者に対して暴言を吐いたことが問題視されている。次の市長選不出馬に関連した取材をかけてきた読売新聞記者に対して「殺すぞ」など脅迫的な文言を投げつけたというもので、読売新聞側は厳重な抗議を申し入れたという。

 ひょっとすると、この市長にとって「殺すぞ」は日常会話でフランクに用いる言葉だったのかもしれないが、公職にある人間が記者に対して発する言葉として不適切なのは議論の余地のないところであり、「報道、言論の自由を脅かすものだ」と非難されても仕方がないところだろう。

 では、「言論の自由」に関連して、昨年末に話題になったこちらのケースはどう見ればいいだろうか。

 昨年末、朝日新聞12月26日朝刊の第3社会面で、最も大きなスペースを割かれていたのは「森友・加計著書巡り 本社が評論家提訴 『名誉を著しく傷つけた』」という見出しの記事だった。

 記事は、文芸評論家・小川榮太郎氏の著書『徹底検証「森友・加計事件」 朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(飛鳥新社)について、「事実に基づかない内容で名誉や信用を著しく傷つけた」として、著者と版元に対して「5000万円の損害賠償と謝罪広告の掲載」を求める訴えを東京地裁に起こした事実と、それに関する朝日側の主張を掲載したものである。こうした主張に、当然ながら小川氏は猛烈に反発をしている、というのが現在の状況だ。

 この訴訟について、「スラップ訴訟だ」といった声もネット上などでは上がっている。「スラップ訴訟」は、一般には馴染みの薄い言葉かもしれない。

 日本でこの言葉が一躍有名になったのは、元朝日新聞記者でジャーナリストの烏賀陽弘道(うがやひろみち)氏がオリコンに訴えられた裁判に関連してのことだ。烏賀陽氏がある雑誌に寄せたコメントについて、オリコンが多額の賠償を請求する訴訟を起こした。問題はそれが版元ではなく、烏賀陽氏個人を狙い撃ちしたものだった、という点である。実は烏賀陽氏のコメントは正確な形で記事では使われていなかった。

 この裁判を争う過程で、欧米の「スラップ訴訟」という概念を広く一般に広めたのが烏賀陽氏である。この時の体験や、海外での事例を取材した結果を烏賀陽氏は著書『SLAPP スラップ訴訟とは何か: 裁判制度の悪用から言論の自由を守る』にまとめてある。烏賀陽氏の説明に沿って、スラップ訴訟を簡単にまとめると、「民事訴訟を起こして相手に精神的・肉体的・経済的負担や苦痛を与えることで、不利益な言論・表現を妨害・抑止すること」ということになる。

 もっと思いっきり乱暴にまとめれば「口封じ」を狙った訴訟となる。「スラップ」は「ひっぱたく」という意味。

 一般には、企業や政府のような「社会的強者」が、自分達よりも弱い立場の側の言論を封じるために行なうのがスラップ訴訟とも受け止められているが、必ずしもそうではない。ただし、資金が豊富な企業に狙い撃ちされた場合、個人で戦うのは至難の業である。烏賀陽氏も、裁判に膨大な時間と金を費やさざるを得ないことになった。烏賀陽氏によれば、「確定申告ベースで収入減、弁護士費用など含め990万円」の損害があったという。

次ページ:烏賀陽氏の見立て

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