AIが仕事を奪うのは“未来の話”ではない――「パワードスーツ症候群」とは

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グーグルとメールとスカイプ

 理解しやすい実例を挙げてみよう。1995年頃、私はある経済誌からの依頼でブラジルのトラックメーカーについての記事を書いたことがある。当時、その1本の記事を書くのには今とは比較できないほどの工程を必要とした。

 編集部と私とでの記事のアウトラインを確認する会議。わが社のリサーチ部門のスタッフによる日本語と有料オンラインデータベースのサーチ。電話取材では私の秘書と現地の秘書で連絡をとりあって時間を設定してもらった。初稿は英訳してもらい、現地の同僚にファックスで確認してもらって、ようやく記事が完成したものだ。

 今年同じことをやろうとすると、グーグル検索とメールとスカイプでひとりですべての作業をこなすことができる。記事を書くのに1995年当時は1週間は必要だったが、今だと取材先とのタイミング次第では24時間で裏取りをした記事が書きあがるだろう。

 しかし問題は、私以外のすべてのライターや執筆陣も同様にパワーアップしていることだ。

 経済や政治、医療や美容など専門分野の記事は、今ではキュレーションという呼び名で行われるネット記事の切り貼りで、専門家ではないライターが3000円程度の報酬でそれらしいものを書きあげることができる。そして私のような専門家の執筆料もそれにひっぱられる形で下落している。

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