恐る恐る「寿命」を測ってみた――命のロウソク「テロメア」とは

ライフ週刊新潮 2017年10月5日号掲載

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命のロウソク「テロメア」を長持ちさせる健康術――緑慎也(上)

 人間の寿命とは、さながらロウソクの如し。揺れる炎は「お迎え」までのカウントダウンともいえる。では、自身の余命が、厳然たる数値で示されるとしたら――。科学ジャーナリストの緑慎也氏が“運命の検査”を体験しつつ、寿命を延ばす秘訣を専門家に問うた。

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 無数のロウソクが並び立つ洞穴で、男が怯えている。何となれば今しがた、

〈目の前の短いロウソクはお前の寿命を表し、火が消えれば命も潰える〉

 そう死神から聞かされたばかりだからだ。死神はその横で薄ら笑いを浮かべ「消えるぞ」と脅す。

 落語の名作「死神」の一場面である。どんなに勢いのある炎でも、風が吹くかロウが尽きれば消えるしかない。死を宿命づけられた人間は、昔からロウソクに我が身の儚さを重ね合わせてきた。

 古臭い喩え話と嗤うなかれ。現代科学が、このロウソクに酷似したものを発見しているのだ。場所は、我々の体を形作る細胞の核。ここには、生きるために必要な遺伝情報を記した「辞書」ともいえる46本の染色体が詰め込まれており、その染色体の先端、科学者によって「テロメア」と名付けられた部分が、命のロウソクの役割を果たしている。

 テロメアは、染色体の安定化に欠かせない構造体である。実際にはロウソクというより、紐状の染色体がバラバラにほどけないようタンパク質でのり付けされており、先端でいわばキャップの役割を果たしている。

 ところが、細胞が分裂するたび、このテロメアは短くなっていく。大事な遺伝情報の紛失を防ぐため、自らを犠牲にして少しずつ削られてしまうのだ。その長さが半分ほどに縮むと、細胞はもはや分裂することができなくなり死に至る。むろん細胞の死が、そのまま個体の死に繋がるわけではない。が、テロメアの短縮は、人間が健康に生きる年月に限界を設けているというのが科学界の通説である。

 それでも、

「現時点でのテロメアの長短は、さほど重要ではありません」

 そう話すのは、広島大学大学院医歯薬学保健学研究科の田原栄俊教授である。

「私達はこれまで、延べ5000人ほどのテロメアの長さを測り、疾病との関わりを調べてきました。テロメアが短い人は長い人に比べて心疾患、糖尿病、がん、感染症など、様々な疾患のリスクが高まる傾向が見られ、短いより長い方がよいのは確かでしょう。しかし、短くなる速さは一定ではありません。たとえ現時点でテロメアが短いと分かっても、縮んでいく速さが緩やかであれば、健康長寿を実現できるのです」

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