おしっこは凍るのか? 真冬の北極圏での正しい立ち小便の作法

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 真冬の北極圏、極寒の野外で立ち小便をしたら、即座に凍って氷柱になる……そんな伝説めいた話を耳にしたことがある。実際にその寒さを体験した2人の経験談が、雑誌「波」2018年1月号に掲載されている。語り合っているのは、作家の椎名誠さんと写真家の中村征夫さん。2人そろって12月にそれぞれ写真集を刊行するにあたっての記念対談だ。

 これまで何十年の間、世界中を旅してきた椎名さんは、戌年を迎えるにあたり、膨大なストックから犬が写った写真をピックアップして一冊にまとめた『犬から聞いた話をしよう』(新潮社刊)、中村さんは、40年前、新聞社の依頼で訪れた地球最北の村、グリーンランドのシオラパルクの真冬の写真をデジタルリマスターして『極夜』を刊行。共に旅することも多かった2人が、それぞれの極寒の地での経験談で大いに盛り上がった。

 なかでも興味深かったのは、「下」の話。何枚も下着や毛皮を着重ねて完全防寒しているとき、野外でおしっこするのが大変なのだとか。

椎名 こんなに着込んでると、おしっこが大変なんだよね。シベリアでマイナス49度を体験したことがあるんだけど、おしっこが凍るっていうんだよ。小便氷柱ができるかもって期待してたんだけど、その前にアレを引っ張り出すのが大変なんだ。厚着してるし、よく見えないし、ごつい手袋してるし。寒いからヤツも縮こまってるじゃない。やっとの思いで引っ張り出して、無事発射できたときは、うれしかったね(笑)。湯気がもうもうと立ち上るんだ。でも氷柱にはならなかった。ロシア人に聞いたら、マイナス50度超えると、地面に落ちて跳ね返った雫は凍るんだって。放射状になって凍ったのを“小便の王様”というらしい。

中村 後で聞いたんだけど、無理に飛ばそうとしないで、ヤッケ(上着)にひっかけちゃうのが正しい小便のやり方だそうですよ。するとあっという間に凍って、あとはパンパンと叩いたら、きれいに落ちちゃう。(「波」1月号 椎名誠+中村征夫対談「写真はタイムカプセル」より)

 中村さんによると、当時のシオラパルクでは、冬の間は“大”も外でするのが普通だったそうだ。そんなことしてたら家の周りが糞尿だらけになりそうなものだが、実際は跡形もなくなるのだという。その模様を『極夜』から引用してみよう。

 人間の排出物は成犬前の犬たちにとって願ってもないご馳走であり、貴重な食料なのだ。

 私も何度か外で用を足した。部屋の外の隅にしゃがみお尻を出した途端、背後に動物の気配を感じた。じわりじわりと近づいてくる。

「ウウーッ」

 まったく見えないが数匹の犬に包囲されているようだ。どの犬も我先に獲物に食いつかんと、お尻に触れるくらいまで接近しているようだった。

「ウウーッ!!」

 さっきより野太い声が聞こえた。早くしろと催促しているのだろう。

「こっちだって野菜不足で便秘なんだ!!」

 と、言い返したい気分だった。

 いよいよ危険を感じたので一旦部屋に戻り、長い棒を持ち出し仕切り直しだ。寒さでお尻の感覚が失われていく。棒で追い払いながらの行為はうまく集中できず、途中で断念した。(『極夜』より)

 愛犬家の2人が語った、犬と寒さにまつわる悲喜こもごも。奇しくも同時期に写真集を刊行することになった2人の話題は尽きない。

デイリー新潮編集部

2017年12月26日掲載

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