子どもを持つ人生?持たない人生? 吉田羊の表情が見事「コウノドリ」第7話

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 産科を舞台にした医療ヒューマンドラマ「コウノドリ」は、さまざまな出産、そして時には死と隣合せの過酷な医療現場のあり方を描いている。鴻鳥サクラ(綾野剛)、四宮春樹(星野源)ら産科の医師や、小松留美子(吉田羊)ら助産師たちの奮闘が、毎週出産の喜びや悲しみに寄り添い、多くの視聴者を勇気づけている。

 第7話は、子どもを持つこと、持たないことを選択することになった女性たちの葛藤が丁寧に描かれた。

 更なる成長をめざして下屋加江(松岡茉優)が救命科に異動したあとの産科では、これまでたびたび下腹部が痛む様子を見せていた小松がついに倒れてしまった。検査の結果、小松は子宮腺筋症と卵巣チョコレート嚢胞を患っていることがわかる。サクラは、小松のために子宮の全摘出を提案する。「私から子宮がなくなっても世界が平和ならそれでいいか。ふーん、困ったねえ」と軽口を叩きながらも、小松は視線を落とし、複雑な表情を見せる。

 一方、出産後に産科に復帰した倉崎絵美(松本若菜)は育児と仕事を両立することについて、サクラら同僚医師が必要以上に自分を気づかいすぎていると感じていた。補助的で、不本意な役回りしか任せてもらえない、いわゆる“マミートラック”に乗せられかけている彼女の不安が伝わってくる。

 さて、今回は小松を演じる吉田羊の細やかな表情の演技がいつも以上に引き立つ回だった。食堂で、倉崎と下屋と楽しくおしゃべりしあいながらも、下屋に「小松さんはみんなに優しいから」と言われ、泣きそうに眉間にしわをよせる吉田羊の表現力は、自分の子どもを持つことができなくなるであろうという彼女の葛藤と、それでも母になる・なった女性への揺るぎない愛情を感じさせる素晴らしいものだった。

 そんな小松は、倉崎の複雑な気持ちも繊細に感じ取り、サクラや四宮とは違う形で彼女を助ける。保育園のお迎え時間直前に、倉崎が主治医として診ている患者が出血を起こした時に、代わりにお迎えを申し出たのだ。倉崎の目には涙がにじみ、本当に彼女が必要としていたのは小松のようなサポートのあり方だったのだと痛感させられた。

 しかし小松は子宮摘出についてひそかに悩み続けており、ペルソナ(サクラらが勤める総合医療センター)のメディカルソーシャルワーカー向井祥子(江口のりこ)に「お母さんになる人生とならない人生、何が違うのかな……」とぽつりと問いかける。2人の子を持つ向井は、その問いにうまく答えることができなかった。

 手術について深く小松が悩んでいることを、サクラはもちろん感じ取っていた。サクラはいつも、その優しさで人々の背中を押してきた。前回は、救命科に移りたいと申し出た下屋を、ペルソナの屋上で。そして今回は、小松のためだけに夜のバーでピアノを奏でることで。「がんばってる小松さんも好きだけど、がんばってない小松さんも大好きです」というサクラの言葉。「好き」と「大好き」を使い分けることで、サクラの愛情深さが表された印象的な台詞だった。そして小松は、子宮摘出を決意する。

 私にも、大学時代からたびたび集まっている女性の友人たちがいる。若い頃は夜を明かして酒を飲んだものだが、メンバーたちが結婚するにつれ、それは朝ごはん会やランチ会に変わり、今ではたくさんの子どもたちと一緒にたびたびホームパーティをひらく仲だ。今年ついに、私以外に子どもを持っていなかった最後のメンバーが妊娠し、独身で子どもを持たない女性は私だけとなった。そのことに何か思うことがないわけではない。ないわけでは、ない。おめでとう、と心から思う。思っている。でも……。手術台に乗った小松が、麻酔をかけられる前に「ちょっと待って」と繰り返し、涙を流す様子に、私も涙が止まらなかった。女の生き方は、本当に選択の連続だ。迷い、悩み、もがく中で手を差し伸べてくれる誰かを探して生き続けていくしかない。

 ペルソナの産科は「チーム」である、と今回はたびたび強調された。育児中の倉崎や、入院した小松を支える、サクラや四宮たちの絆も描かれた。小松の病を知った時の向井のはっとした表情や、退院後に彼女の自宅へ見舞いに行った様子からも、向井が小松を思う深い気持ちが伝わってきた。だが、医師たちが成長し、ライフステージや各々の生きる道を探る中で、いつまでも同じ「チーム」であり続けられるかどうか、そのこと自体が良いことなのかどうかという問題提起も、暗になされてきている。

 実際に、下屋は救命科に移り、新たな居場所で研鑽を積んでいる。人は誰でも、自身の描く未来像に合わせて居場所を変えていくものだ。

 来週は、新生児科医の白川領(坂口健太郎)にスポットが当てられることになりそうである。学会での発表の評判に手応えを感じ、自信をつけるとともに少しずつ慢心を覚えてきている彼が心配だ。同期の下屋が新たなステップを踏み出したことで、自覚はしていなくても向上心が空回りしているのかもしれない。もちろん、学会発表で別の病院の医師から声をかけられ、褒められれば誰でも嬉しい。白川には、優秀だからこそ、病院の外部からの評価と自分自身の仕事ぶりの見え方の違いを、今一度考えてみてほしいと願う。チームペルソナ、そしてチームコウノドリを私は応援してやまない。

西野由季子(にしの・ゆきこ)(Twitter:@nishino_yukiko) フリーランサー。東京生まれ、ミッションスクール育ち、法学部卒。ITエンジニア10年、ライター3年、再びITエンジニアを経て、永遠の流れ者。実は現代演劇に詳しい。新たな時代に誘われて、批評・編集・インタビュー、華麗に活躍。

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