出光創業家が頼りにする大株主「出光美術館」の重大法令違反

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

創業家の意のまま

 この出光文化福祉財団とは、福祉活動を支援する財団で、出光美術館は先述のとおり。実を言えば、出光興産は早くから2つの財団が、創業家に与していることに異議を唱えていた。

 出光興産のOBが言う。

「出光美術館も出光文化福祉財団も、公共性の高い『公益法人』であり、税金の優遇も受けている。特定の相手に利益を与えるような行為は認められておらず中立であるべきです。つまり、経営統合に反対する創業家の側に立つこと自体がおかしいのです」

 だが、出光興産の“怒り”には別の理由もある。

「もともと、出光美術館は出光佐三のコレクションを収める施設として1966年に創立されたのですが、出光興産はずっと巨額の援助を続けていました。具体的には絵画購入の資金として毎年約10億円を寄付していたのです。さらに、89年から数年間は、出光興産本体の予算で直接美術品を購入していた時期もある。今はもう止めていますが、援助の総額は400億円にもなると言われ、会社の大きな負担となっていたのです」(同)

 出光興産にすれば、身銭を切って資金を援助し、運営を支えてきたはずの美術館にあっさり裏切られている格好である。

「もうひとつの出光文化福祉財団にしても、もともとは出光佐三が社員の福利厚生のために自らの株を拠出して設立した経緯があります。出光興産株の配当を原資にして永年勤続の社員に一時金を出していたこともある。本来、財団の保有株は社員のためのもの。ところが、いつの間にか、これも創業家にコントロールされるようになってしまったのです」(同)

 2つの財団は両方とも理事長が出光昭介氏。そしてそれぞれに創業家の親族3人が理事として入っており、また何人かの理事や評議員が両方の財団を兼務している。これは、公益法人の要件を定める公益認定法に抵触しないのだろうか。

 そこで、出光美術館の理事の1人に聞いてみると、

「たしかに、内閣府から、財団運営に関して法令違反・定款違反との指摘を受け、是正を求められたことがありました。しかし、理事会は月2回のペースで開いており、色んなことを話しあっています。もちろん、昭和シェルとの経営統合問題についても議論していますよ」

 と反論する。

「昭和シェルとの経営統合の話が持ち上がったとき、理事会で問題にされたのは“対等合併になる”ということでした。吸収合併ならともかく、対等合併では規模の大きい出光(※売上げで約2倍)の株主にとって不利益になりかねない。加えて外資系企業と出光では社風も違う。合併で様々な問題が起きる可能性もあります。ならば、敢えて規模を追わず“個人商店”として生きる道もあるんじゃないか、とね。それで、全会一致で経営統合に反対することでまとまったのです」

 しかし、両財団が抱えている問題はこれだけにとどまらない。

「おかしなことは他にもあります。たとえば、出光美術館と出光文化福祉財団は、ともに今年6月の株主総会で出光の月岡隆社長の再任などに反対していますが、これは法令違反の疑いがある。2つの組織が共同歩調で議決権を行使するのなら、“実質共同保有者”として大量保有報告書に記載しなくてはなりませんが(金融商品取引法27条23)、それをやっていない。正直言って、2つの財団がどれだけ公正に運営されているのか疑問です」(出光関係者)

 経営統合を急ぐ出光興産は、なるべく早い時期に株主総会を開いて昭和シェルとの統合を決議したい意向だ。出光興産も出光美術館も出光佐三が手塩にかけて育てた「家族」である。生きていたら、何と言って諭していたであろうか。

週刊新潮 2017年11月9日神帰月増大号掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。