それでも中国の2倍の強度と高品質… 新聞が書かない「神戸製鋼」事件の裏側

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〈不正自浄できず〉、〈溶ける信用〉、〈品質より納期優先〉。連日のように不正を報じられる神戸製鋼所。だが、「被害者」であるはずの顧客企業が、むしろかばう側に回っているのだ。新聞が教えてくれない「検査データ改竄事件」の裏側とは――。

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 組織ぐるみの偽装が明るみに出たと思ったら、次の日も新たな不正のニュースが新聞紙面を賑わせる。大手鉄鋼メーカー・神戸製鋼所(以下・神鋼)で発覚したデータ改竄事件は、まるで底なし沼だ。

 経済部記者が解説する。

「神鋼が製品の検査データを改竄していたことを明らかにしたのは10月8日ですが、当初、アルミ・銅製品のみとしていたのです。ところが、3日後には鉄粉や液晶画面材料でも明らかになり、さらに鋼線、ステンレス鋼線とどんどん広がった。素材メーカーだけに出荷先も多く、データを改竄された製品は鉄道、自動車、航空機メーカーなど500社以上で使われていることも分かってきました」

 事件の余波は海外にも広がり始めている。10月17日には、神鋼が米司法当局から資料提出を求められたことが明らかになり、EUの欧州航空安全機構(EASA)も、神鋼製品の不使用を勧告したことが報じられた。

「このままいくと、海外で神鋼の製品が締め出されてしまいます。また、エアバッグの死亡事故から集団訴訟に発展し、経営破綻した『タカタ』のように、罰金を求められたり訴訟を起こされたりして巨額の損失を強いられるかも知れません」(同)

 さらに、データ改竄のニュースは、世界一の鉄鋼大国である中国にも届いている。

 中国に詳しいノンフィクション作家の安田峰俊氏によると、

「中国の粗鋼生産量は年間8億837万トンで、日本の5倍強あり、深刻な“鉄余り”に陥っている。これまでにも実際にありましたが、向こうの鉄鋼メーカーが神戸製鋼の不祥事のスキをついて売り込みをかけてくることは十分あり得ます」

 ところが、連日のように神鋼の不正をあばくニュースが流れる一方で、冷静なのが「被害者」のはずの顧客企業なのだ。たとえば、問題となったアルミ製品は、JR東日本の新幹線でも使われている。

 同社の担当者が言う。

「データ偽装されたアルミ製品は東北新幹線の『はやぶさ』や、北陸新幹線の『かがやき』、『はくたか』などの車両の壁板として使っています。具体的には、JIS規格より0・3ミリ厚くなっていたというものです」

 また、神鋼のアルミ製品は重要な車輪まわりにも使われている。

「新幹線には一車両あたり、車軸が4本ずつ通っておりこれを受け止めているのが軸箱です。具体的には『はやぶさ』や『こまち』などで、神鋼製の軸箱が使われていましたが、これもJIS規格と少し違っていました。“傷みやすさ”で5%高く、強度で0・4%低かったのです」(同)

 この数値が、運行の安全を脅かすのなら、JR東日本はただちに新幹線を止めて、部品を交換しているはずだ。車両によってはスクラップ化もあるだろう。ところが、実際には何事もなく走っている。これはどうしたことなのか。

「そもそもJR東日本が求めていたアルミ製品のJIS規格は『H4140』というものですが、金属製品には、多少の差が出ることを許容する“公差”というものがあります。それからすると、強度で0・4%低いというのは誤差の範囲と言えるのです」

 そう説明するのは別の鉄道関係者だ。

「鉄道会社は製品を神鋼から直接買うのではなく、日本車両や日立といった車体メーカーが神鋼の部品を使って車両を組み立て、それを納入しています。そこが十分強度に余裕を持たせた数値で製造していますから安全については問題ありません。新幹線は2年に1回は大がかりな検査を行うようになっていて、問題の部品を交換するにしても、その時の検査でも充分対応できるのです」(同)

 また、神鋼の出荷先にはトヨタや日産、ホンダなどの自動車メーカーもある。彼らはどう見ているのだろうか。

「神鋼の問題はコンプライアンス(法令遵守)と安全性を分けて考えた方が良いと思います」

 とは、自動車業界の関係者だ。

「たとえば問題になったアルミ製品はスポーツカーなど高級車のボディパネルに使われることが多いんです。しかし、データが改竄されていたからといって走行中にパネルが剥がれたりなんてことはあり得ない。また、エンジンの部品にも神鋼のものが使われていますが、メーカー側が求めている元の基準が厳しいということもあって、問題にするレベルではない。今回のデータ改竄事件で、自動車メーカーは車種を発表していません。安全性に問題がないため、リコールをせずに静観するのが一番良いと考えているからです」

 意外なのは、神鋼を応援する声もあることだ。

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