第2の「まつりさん事件」で実状無視の働き方改革 NHK現場の悲鳴

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 社会の木鐸を自負するNHKは、大手広告代理店・電通社員の高橋まつりさんが、長時間労働を苦に自殺した事件を手厚く報じてきた。だが、自らの組織で第2の「まつりさん事件」が発覚。再発防止を目指す「働き方改革」に、現場から悲鳴が聞こえてくるのだ。

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 10月4日、NHK総合テレビの看板番組「ニュースウオッチ9」が報じたのは、ある職員の過労死だった。

 全国紙記者が解説する。

「2013年7月、NHK首都圏放送センター所属の佐戸(さど)未和記者が、過労と過度のストレスにより心不全で亡くなったのです。31歳という早すぎる死の背景には長時間労働があったとして、翌年5月には渋谷労基署から労災認定がおりています」

 4年前の悲劇が今になって公表されたのには、こんな事情があったと続ける。

「毎年、命日にはNHK幹部が焼香へ来たのに、今年はご両親が連絡するまで音沙汰がなかった。娘の死を知らないNHKの人間がいることをご遺族が知って、このままでは過労死の事実が葬りさられるのではと危惧していたそうです」

 遺族の弁護士は、高橋まつりさん事件を担当した人物で、彼を通じて遺族が労災問題の集会などへ足を運ぶ中、取材に来たマスコミにこの問題を訴えていた。

「新聞社から問い合わせを受けたNHKは、会長の定例会見前日、他社が報じるより先に公表へと踏み切ることにしたのです」(同)

 NHKは件の番組で、

「この事をきっかけに、記者の勤務制度を見直すなど働き方改革に取り組んでおり、職員の健康確保の徹底をさらに進めて参ります」

 と締め括ったが、その「改革」に大きな疑問符がついている。

「当確は外すな」

 過労死が公になってから、局内では記者向けの説明会を実施して、佐戸記者の死が「改革」の原点にあると告げられたという。

「職員の勤務制度が完全に変わったのは去年からですが、とにかく上司から“残業はするな”“休日は働くな”“休みをとれ”と口酸っぱく言われるんですけどね」

 と嘆くのは、NHK報道局所属のある記者だ。

「総選挙前なのに、規則に従えば夜の11時半を過ぎたら、NHKの記者は現場を離れないといけません。それなのに、上司からはウリである開票速報で当確は外すなと厳命される。選挙取材はちゃんとやれという一方、働くなと矛盾した指示を出すのは、あまりに現場の実状を無視しています」

 NHKのみならず、昼間は接触しづらい取材対象への“夜討ち朝駆け”は、報道機関にとって欠かせない。

 別の記者はこうも言う。

「電車がない時間帯は会社の車を回して貰えないので、自腹でタクシーを呼んでいます。けれど、都心から郊外だと片道1万円はかかる。残業代を減らされた上に精算できない経費が増えて、二桁の万単位で月給が減ってしまった同僚もいます」

 当のNHKに聞くと、

「ご質問のようなことは承知していません」(広報局)

 過度な労働は禁物とはいえ、体裁を繕うだけの「改革」では本末転倒――。結局、下々に負担を強いる体質に変わりはないようだ。

週刊新潮 2017年10月19日号掲載

ワイド特集「人生の残照」より

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