どの回もハズレなしの“人生最悪の1日”を描いたドラマ(TVふうーん録)

芸能週刊新潮 2017年10月5日号掲載

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「人生最悪の1日」を思い出してみる。私にとっては間違いなくあの日。寝落ちして、配偶者に携帯電話を見られ、悪癖がバレたあの日。全身の血液が逆流する感覚。口の中がカサカサに乾いて言葉が出なかったあの日。それでも生きている。

 そんな人生最悪の1日をテーマに、毎回異なる脚本家と豪華なキャストがひねり出すパニックコメディが「下北沢ダイハード」だ。コトはすべて下北沢で起こる。

 1~11話の全キャストをねちねちと執拗に絵に描きたいところだが、紙幅足らず、絞り込んでお伝えする。

 何はともあれ初回。これは神回と言ってもいい展開。ドMの変態国会議員を神保悟志、調教する女王様をコケティッシュな柳ゆり菜が演じる。神保がスーツケースに全裸で入り、羞恥プレイに興じるものの、なぜか取り違えられてしまう。「そうきたか!」と膝を打つオチに爆笑した。しかも人生最悪の日が、実は新たな気づきとスタートにつながるという、希望に満ちた内容なのだ。日日是好日のハッピーエンドに心温まる。絵的には全裸&SMだけど。

 第2話では光石研が本人役で登場。有名人が風俗店でトラブルに巻き込まれる焦り。保身のため、咄嗟に芝居を打つ光石。延々泣きの芝居でも結局逃げられず。

 第3話は女装趣味のある夫(野間口徹)をひた隠しにする妻(麻生久美子)の物語。ママ友にバレそうになって大慌て。上野・浅草界隈でウケそうな、超古典的な女装の野間口が可愛い。

 第4話は最も「下北沢愛」が溢れる物語。緒川たまきと酒井若菜が演じる、女の生きざま&来し方行く末。

 第5話は、夏菜がミュージシャンのヒモ彼氏(和田聰宏)を振り向かせようと奮闘。最高のセックスで虜にしようとするも、邪魔が入るわ、本音の自分も出てきちゃうわで難航。冷蔵庫や棚、ベッドの下から本音が出るわ出るわ。これが爆笑モノで、しかもラストが爽快。クズのヒモ男から卒業する夏菜の姿に思わず拍手。この回が一番好きだな。

 第6話は「ターミネーター」を小気味よいパロディに仕上げた珍作。佐藤二朗が謎の生命体・シーモキーターとして未来から現れる。未来のリーダー・松本穂香をサブカルから引き離すために暗躍。全裸に未来感が1ミリもないのが、逆に新感覚。松本は「ひよっこ」のナバタメちゃん風で登場。

 第7話は瓶に突っ込んだ指が取れなくなる、役者の佐藤隆太。極道も絡んで大騒ぎに。第8話はヒモ男を青柳翔が好演。風俗嬢の彼女(馬場ふみか)に捨てられそうになり、一か八かの大勝負に。第9話はうだつの上がらないアイドル(金子大地)が武者修行で舞台に。ところが直前に幽体離脱。岸井ゆきのが救世主に。

 キャストも豪華で確実に面白いと思われる、残り2話を待たずにこの原稿を書かねばならないのが悔しい。

 各回に、焦りと憂いと捨てきれない欲望、業(ごう)の深さ、そしてテレビ界や芸能界への恨み節もチョイ盛られている。テレ東ドラマの新奇性と大きな権力に迎合しない心意気。ぜひ、全国津々浦々で放送されますように。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。