テレ朝ドラマで存在感を出しまくったおじさん俳優たち(TVふうーん録)

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 そういえば、テレ朝のドラマをまったく書いていないなぁと思って、まるでとってつけたかのように書いておこうと思う。決して観ていないワケではない。むしろ積極的に観ているのに、原稿を書くうえでのとっかかりがないのである。次の10月期は、ド定番の三つ巴(「相棒」「科捜研の女」「ドクターX」)だしなぁ。

 まず「遺留捜査」。主演の上川隆也が遺留物に着目し、「3分だけ僕に時間をください」という証拠品&時間泥棒が定番の刑事モノ。死んでも誰も悲しまないような嫌われ者や厄介者だった被害者の、本当の心根に寄り添ったりするハートフルストーリーだ。ハートフルってなんだよ。過去、上川は警視庁から月島中央署へと流れ、今期はなんと京都へ。よりによって京都。「京都府警のバックには榊マリコがいるじゃない!」と思った人は「科捜研の女」を観すぎ。私だ。

 当然メンバーもガラリと変わったのだが、ひとり慰留というか遺留というか、連投を続ける男がいる。科捜研研究員の甲本雅裕である。人材交流と称して、なぜか上川と同じ京都府警に派遣されてしまう。上川からの長年の無茶ぶりに胃と心を痛め、やっと解放されたと思ったら、京都で悪夢再び、という役どころだ。

 オシャレで多趣味な甲本。ただでさえ手一杯のところへ、やたらと「なるはや(なるべく早く)鑑定案件」を勝手に持ち込む上川に、公私ともに時間を奪われていく。そう、上川は徹底して時間泥棒なのである。

 正直に言う。もう甲本しか目に入らない。「さーて、今週の甲本さんは?」とサザエさん級のお楽しみに。

 もう1本。こってりと手垢のつきすぎた「黒革の手帖」である。もう飽きた、おなかいっぱい、かと思っていたが、意外と現代版に仕上がっていて面白かった。主演はいろいろと大変な武井咲。プライベートの一面と劇中の状況が重なったことも相まって、応援する気持ちがほとばしってしまう。

 ま、演技力とか迫力に特筆すべきモノはないんだけど。

 武井がいいというよりも、武井の援護射撃をする脇役陣のこってり感たるや。さっぱりしたそうめんを背脂の溶けた濃厚煮込み汁につけて食べるような感覚よ。

 武井に敵対するやさぐれホステスは仲里依紗。もし「ミス・はすっぱ」なるコンテストがあったら、ぶっちぎりの優勝である。そして、借名口座で脱税する医者の愛人・高畑淳子。クソ男に尽くす昭和マインドを残した、昔気質(かたぎ)な女である。

 注目すべきはふたり。武井の銀行時代の元上司で、辛酸を舐めたのが滝藤賢一。武井のせいで出世コースから外され、子会社にとばされて年収は3分の2に激減、当然小遣いは雀の涙……というお父さんの悲哀を情感たっぷりに訴えたのだった。

 もうひとりは絵だけで伝わるかと。テレ朝作品においては「主演キラー」の高嶋政伸。温泉宿で武井を襲うも反撃され、床柱に頭ぶつけて気絶したり、ソファーの上で手足ビクビクさせて喜んだり。嫌みと不気味と不快感の三位一体は、もはや政伸の専売特許である。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年9月28日号掲載

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