桐生祥秀、日本人初の9秒台 課題は“チキンハート”

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追い風1・8メートル

 もちろん大記録が飛び出したのは、ライバルの存在だけではない。 

「追い風1・8メートルというのが絶妙の好条件でした。これが2メートルを超えると公式記録になりません。一般に追い風は、1・0メートルで0・05秒短縮できると言われていますから、桐生は0・1秒近く速く走れた計算になります」(前出のデスク)

 そして何より、地方のインカレ大会だったことが大きいと話すのは陸上関係者だ。

「桐生の不調が続き、記者が少なかったことも影響していると思います。リオ五輪の予選敗退もそうでしたが、桐生は、マスコミが殺到する世界大会ではなかなか結果が出ない。それを練習で乗り越えようとしてまた調子を崩してしまう。それに自分の目の前を他の選手が走っているような厳しいレースだと、なぜか失速する。飄々としているようで“チキンハート”な面があるのです」

 だが、男子100メートルの元日本記録保持者の不破弘樹氏が言うのだ。

「9秒台への期待が5年間続いたことから他の選手より重圧があったことは事実です。今後、桐生君が世界大会で勝つためには練習だけではクリアできないものがある。それは、ひたすら“世界”における実戦経験しかありません」

「やっと世界のスタートラインに立てた」 

 試合後、そう語った桐生の目の前にあるのは、容赦のないチキンレースの世界である。

週刊新潮 2017年9月21日菊咲月増大号掲載

ワイド特集「一葉落ちて天下の秋を知らず」より

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