熊谷6人殺害事件 遺族が明かす「空っぽの2年間」

国内新潮45 2017年10月号掲載

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 その日、彼は最愛の妻子を一度に失った。犯人は全く面識のない外国籍の男。決して癒えることのない痛みと、やり場のない怒りに向き合った日々に迫る。

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 ここ最近、「加藤さん」(44)は自転車で遠出する機会が増えたという。

 きっかけは彼の妻が誕生日プレゼントに買ってくれたロードレーサーだ。ハンドルの付け根には、遊園地の観覧車に乗って笑顔を見せる妻子の写真が取りつけられている。

「この自転車で色んなところを回りました。往復170キロくらいかけてディズニーランドまで行ったこともあります。娘たちに“行ってみたい!”とせがまれていたので。気持ちとしては一緒に連れて行ってる感じなんですけどね。自転車を通じて知り合いも増え、今年は地元のロードレース大会にも出場しました。ええ、やっぱり風を切って走る時は楽しいですよ。でも、正直なところよく分からないんです。自分がいま何を考えて、どう行動するのが正しいのか。正解なんて見つからないのかもしれませんが」

 自宅で取材に応じた彼はそう語る。

 視線の先には、リビングとキッチンを隔てる白い壁に貼られたカレンダーがあった。赤いボールペンで細かく予定が書きこまれたカレンダーは、よく見れば「2015年9月」のままだ。

 そう、あの事件の発生からまもなく2年が経とうとしている。

 埼玉県熊谷市内の長閑な住宅街が、悪夢のような惨劇に見舞われたのは一昨年9月のことだ。

 同月14日に田崎稔さん(55=当時=、以下同)・美佐枝さん(53)夫妻の刺殺体が見つかったのを皮切りに、2日後の16日には白石和代さん(84)、さらに、加藤美和子さん(41)と長女の美咲ちゃん(10)、次女の春花ちゃん(7)が変わり果てた姿で発見された。

 立て続けに6人もの命を奪い去ったのは、ペルー国籍のナカダ・ハデナ・バイロン・ジョナタン被告(32)だった。

 冒頭の加藤さんは、妻と小学生の娘2人を一度に失った遺族である。

 彼は事件からの日々をこう振り返る。

「長いと言えば長かったですが、むしろ時間が止まってしまったような感覚でしょうか。事件からの2年間、生きているという実感がわかない。そういう日々がずっと続いているんです」

 風を切って走るロードレーサーの車輪とは違い、止まってしまった時間はまだ回り始めてはいない。

 加藤さんの妻子が命を落とした「現場」は、彼が事件の2年前に建てたばかりのマイホームだった。

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