意識を回復「熊谷6人殺害」ペルー人犯人に死刑を言い渡せるか?

国内 社会 週刊新潮 2015年10月8日号掲載

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 独り暮らしの親を気遣って移り住んだ夫婦に、友人想いで多趣味な84歳、そして、年端もいかぬ姉妹と母親――。そんな6人の命は一瞬にして切り裂かれてしまった。他方、意識不明のまま救急搬送された“犯人”は奇跡的に意識を回復したという。しかし、当初から奇矯な行動が特徴的だったこのペルー人に極刑判決を下せるのか。

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「容疑者の行動を見る限り、個人的には死刑が妥当だと思います」

 そう断言するのは、日大の板倉宏名誉教授である。

「たとえば、逮捕される危機感から、任意で事情を聞かれていた警察署を飛び出すといった行動は、明らかに彼の意思に裏付けられている。容疑者の行動を見る限り、心神喪失はもちろん、心神耗弱とも考えづらく、責任能力がないとは言い切れません」

ペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン(30)

 6人殺害への関与が疑われる、ペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン(30)は逃亡の果てに被害者宅から転落し、意識不明の重体となった。どうにか、医師の呼びかけに応じるまでに回復したものの、後遺症が残る可能性はある。それでも、

「容疑者の証言が十分でなくとも、今回の事件では凶器や状況証拠が揃っています。完全に回復しないからといって死刑を免れることはないでしょう」(同)

 彼の意識が戻ったのであれば、大量殺人事件の経緯を自らの口で説明させた上で、板倉氏が述べた通り、極刑に処されるのが道理であろう。

■遺伝的な要素

 その一方で、“統合失調症”の疑いが死刑判決を阻む高い壁とならざるを得ないのも事実だ。

 実際、ペルーに住むナカダの姉は、「バイロン(ナカダ)には分裂症の兆しがあった」と証言している。

 この点につき、犯罪者の精神鑑定に携わってきた臨床心理士で、一般社団法人「こころぎふ臨床心理センター」の長谷川博一代表は、

「仮に心神喪失や心神耗弱状態であっても、そのことが事件に直結しなければ死刑は避けられないと思います。今回の被害者には落ち度がなく、殺害された人数も多い。犯行の卑劣さは判決にも影響します。また、裁判で優先されるのは精神鑑定の結果。過去に通院歴があったり、精神疾患と診断されていても参考程度にしかなりません」

 だが、

「本来なら一刻も早く逃げ出したいと考える殺害現場に潜伏し、食事までしている。しかも、躊躇なく次々と殺害行為を続けた。物事を合理的に判断する能力が損なわれていた可能性は否定できません」(同)

 ナカダの常軌を逸した行動が、責任能力の有無の判断に影を落とすと考えるのは、精神科医の町沢静夫氏も同じだ。

「彼が口にした“背広の人に追いかけられている”という被害妄想は、典型的な統合失調症の兆候です。その上、今回の事件は事前に犯行の準備を一切しておらず、計画性も窺えない。明らかに常識を欠いているので重症と言えます。裁判所が心神喪失と判断することは十分に考えられますし、そうなれば死刑に問われることもありません」

 加えて、ペルーで17人を殺害した罪に問われた実兄が統合失調症と診断された点も無視できないという。

「統合失調症には遺伝的な要素もある。彼が兄と同じ病気を患っている可能性は高いと思います」(同)

 そうなれば、遺族は一度ならず二度までも“不条理”に涙することになる。

「ワイド特集 浮沈七度の決算書」より