私は母親失格? 誰にでも起こりうる「産後うつ」の恐ろしさ

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 介護殺人や家庭内暴力など、家庭内で起こった事件とその背景を掘り下げた読売新聞の連載「孤絶 家庭内事件」。児童虐待や産後うつなどを取り上げた第3部「幼い犠牲」には、150件を超える意見や感想が手紙やメールで届いたという。

 可哀想、悔しいなどの声とともに、届けられたのは、「人ごとではない」という言葉。特に、「産後うつ」が引き起こした我が子に対する殺人事件について、同じく産後うつを経験したことがある41歳の女性からは「この子さえいなければ」と、幼い娘の首を絞めたことがあるという告白が寄せられた。

 臨床心理士で自助グループ「ママブルーネットワーク」代表の宮崎弘美さんは、21年前、28歳で産んだ長男の子育て中に「産後うつ」を患った。宮崎さんは当時の様子をこう綴る(読売新聞 8月5日・朝刊より抜粋、引用)。

《「私に生きる価値はない。子どもと一緒に死のう」と電車に飛びこもうとしたり、アパートの4階から飛び降りようとしたりした。でも、「母親失格だ」と言われるのが嫌で、夫や周囲には気持ちを話せなかった。そんな生活が3年ほど続き、新聞の文字が読めなくなり、テレビの音声が外国語に聞こえた。》

 限界を感じた宮崎さんは、自ら入院し治療。一時的に子供と離れて暮らすことでうつから回復したというが、事件を起こした母親たちと自分は紙一重だったと振り返る。

 望んで妊娠・出産したにもかかわらず、育児中にどうしようもない不安や孤独に襲われ、ノイローゼ気味になってしまう「産後うつ」。10人に1人は患う病と言われているが、その実態は案外知られていない。

 同じく産後うつを体験した漫画家・はるな檸檬さんは自身の妊娠出産体験を描いた漫画『れもん、うむもん!―そして、ママになる―』で、仲良しだった実母のささいな一言が許せず、泣き叫びながら人生最大の大ゲンカをした当時のことをこのように振り返る。

 普段なら何気なく笑い飛ばせることが、妙に心に引っかかり追い詰められていく「産後うつ」。それは決して本人の責任ではなく、出産で受けた体のダメージや、休みなく続く育児の疲労、急激なホルモンバランスの変化によるもので、いわば当然のことなのだ。そのことを本人も家族も理解し、いち早くSOSを出し、周囲もそれを理解することが大事だ。

デイリー新潮編集部

2017年9月15日掲載

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