ハーバード大が証明! 難病を退治するマイオカインの「五大効能」

ドクター新潮 医療 がん

  • ブックマーク

 現在、筋肉から見つかっているマイオカイン(筋肉が分泌するホルモンの総称)は30種類以上あるが、大部分は、何の働きをするのか分かっていない。マイオカインは、まだ未知の領域が多いのだ。だが、研究が進んだ物質の中には、いくつもの病気を食い止める効果があることが明らかになってきた。

 ***

 骨格筋が体重に占める割合は約40%。以前は体を動かすための組織だとしか考えられていなかったのが、実はホルモンを出すことが分かったのだから、言うなれば最大の内分泌器官ということになる。医学者や科学者がマイオカインに注目する理由は、そこにある。

 現在、効用が分かってきているマイオカインを挙げると、

「SPARC」
「IL―6」
「FGF―21」
「アディポネクチン」
「アイリシン」
「IGF―1」

 などがある。中には1つの病気だけでなく、複数の病気にまたがって効くものもあって、大別すると5つの効能が分かっている。

 順番に説明して行こう。

 男性ではがんの死因の第3位、そして女性ではトップの大腸がんは転移しやすいがんでもある。

 マイオカインの中でも代表的なホルモン「SPARC」は、大腸がんのがん細胞を“自殺(アポトーシス)”させる働きがあることが知られている。

「もともと運動が好きな人は大腸がんになりにくいというデータがあったのです。一方でSPARCは大腸がんの抑制因子であることが分かっていましたが、筋肉から分泌されることが判明してくると、運動とSPARCの密接な関係が注目されるようになったのです」(大妻女子大学家政学部の高波嘉一教授)

 次に「IL―6」。このホルモンは体内の糖を取り込み、肝臓では脂肪を分解する。つまり、肥満や糖尿病を抑える効用があるのだ。

「FGF―21」も、肝臓で脂肪を分解。また脂肪細胞に作用し、燃焼させると考えられている。肝硬変につながる脂肪肝を改善するマイオカインだ。

「アディポネクチン」は、もともと脂肪細胞や肝臓から分泌されることが知られており、脂質を分解する作用がある。これは、糖尿病や、脂質異常から来る動脈硬化を防ぐ効能があるが、10年ほど前、筋肉からも分泌されていることが判明している。さらに、最近の研究では、これまで知られていなかった効能もあることが分かってきた。

 運動生化学を専門とする筑波大学体育系の征矢(そや)英昭教授が言う。

「まだ、動物実験のレベルですが、マウスの輪回し運動によってアディポネクチンが脳内に入り込み、海馬の神経の新生(新しく作られるという意味)を促すという報告がなされたのです。ストレスやうつ病、認知症になると脳神経が新生されず海馬が萎縮してしまうのですが、運動をすることによって海馬に新たな神経が増える可能性が出てきたのです」

■自分で作れる

 海外では、ハーバード大学の研究チームが注目したのが「アイリシン」だ。

「これも動物実験ですが、ハーバード大学の論文ではアイリシンも脳に影響を及ぼすとしています。詳細は不明ですが、筋肉から分泌されたアイリシンが脳に入ると、認知機能を改善するBDNFの発現に効くとあります」(同)

「IGF―1」も脳神経に作用すると見られている。このホルモンは、もともと筋肉や骨の成長促進に欠かせない物質として知られていた。だが、征矢教授によると、この物質が神経細胞を作り、シナプスの結合、さらには血管新生を促すことも明らかになっている。

 実際に、2010年、征矢教授の研究チームは、IGF―1が脳血管を通って脳神経に働きかけることを確認している。

「軽い運動によって脳神経が活性化されると、神経に近い血管が開き、血液によって酸素やIGF―1が運ばれます。その際、IGF―1は、酸素とともに小さな血管の穴を通り抜けることができ、脳内に流入するのです。その結果、神経の活動を高めたり、アルツハイマー病の原因物質のひとつであるベータアミロイドを減少する効果があったのです」(同)

 がんから認知症まで予防するとは、マイオカインの“守備範囲”の広さには驚かされるばかりだ。

 もっとも、ここまでは、病気に効くとされるマイオカインを紹介してきたが、例外もある。中には一見、マイナスの作用を持つものも見つかっている。「マイオスタチン」だ。

「マイオスタチンは筋肉の成長を抑える働きがあることが分かっています。実際、マイオスタチンの働きを抑制されたラットが、筋肉モリモリになったという実験報告がありますし、先天的にマイオスタチンが少ないため、子供の頃から筋肉質な人がいることも知られています。しかし、発想を転換して、これをうまくコントロールする薬の開発ができれば、寝たきりの高齢者が歩けるようになるかも知れません」(徳島大学先端酵素学研究所の親泊(おやどまり)政一教授)

 目下、マイオカインの研究には製薬メーカーも参入し、熱い視線を送っているが、残念なことに薬として使われるのはまだ先の話。さらに、

「たとえば、IL―6を新薬として開発するにしても抗体医薬品は、がん治療薬のオプジーボのように高額な薬になってしまう可能性もあるのです」(同)

 だが、マイオカインは自分の力で体の中に作ることができる。高い薬が開発されるのを待っているよりも“安あがり”で手っ取り早い増やし方があるのだ。

特集「『医学者』『科学者』が瞠目!『大腸がん』『糖尿病』『動脈硬化』『アルツハイマー』『うつ病』を防ぐ!! 夢の万能ホルモン『マイオカイン』」より

週刊新潮 2017年7月6日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。