敗れた棋士たちが語る「藤井聡太」 リベンジ宣言に苦笑い、意外な弱点も?

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■小声の“しまった!”

 7月2日の対局に敗れ、連勝記録は29で止まった。しかし彼の棋士としての人生は続き、今後もますます棋力を上げるであろう。これから先、先輩たちも手をこまねいているワケにもいかないはずだ。“天才”藤井に、何か弱点はないのか。

「弱点と言うほどのものではありませんが……」

 と言いつつ、「気になったこと」を述べるのは、瀬川晶司五段(47)。

「私は26戦目に当たりました。確かに落ち着いていて、とても礼儀正しい。ただ、よく見ると結構形勢が顔に出るのです。棋士は、相手に無駄な情報を与えないよう、自分が悪手を指しても、ポーカーフェイスを貫くのが普通。でも彼はやはり14歳で、ミスをした時は、ヒザを叩いたり、時にはボソッと小さな声で“しまった!”と口に出したり……」

 脱サラして棋士になった“苦労人”はやはり細かいことに目が行く。

 別の棋士によれば、よくよく見ると、藤井四段は、悔しい時に下唇の左側をギュッと噛む癖があるのだとか。ある非公式戦で「完敗」に近い内容で敗れた時は、あまりに噛み過ぎて唇が真っ赤になってしまったこともあったという。

 瀬川五段によれば、

「まあ、弱点というより、大物ぶりの表れと言えないこともないのですが……」

 とのことだが、先輩棋士の面々は、ここに注目するのも一考かもしれない。

 最後に、

「彼と対局してみて、時代の流れを感じましたね」

 と感慨深げなのは、有森浩三・七段(54)。7局目の相手である。

「彼の将棋からは、粗さや隙みたいなものが感じられない、欠点が感じられなかったのです。これはきっと研究環境に関係があるのだろう、と。今はパソコンやスマホがあるから、対局をライブで見ることが出来る。でも、私たちの世代は、棋譜を見ようとしたら将棋会館に申請をし、郵送で手に入れるまで1カ月はかかっていましたよ。これだけ研究環境が整ったら、若い棋士の棋風が洗練されていくのは当たり前でしょうね」

 とは言え、もちろん環境だけでこれほど勝てるワケではないという。

「得られる情報量が増える。すると、それが必要な情報かどうか、取捨選択する能力が必要になるのですが、彼はそれが高いのでしょう。だからこそ、今の成績が残せているはず」

 その意味で最後はやはり“人”が全てということか。

 14人の敗者インタビューで示されたのは、藤井四段の、老練だが幼なさも感じさせる人間としての相貌。

 さすれば、人間・藤井四段への異常な注目度は、昨今「スマホ不正」やら「最強将棋ソフト」やらにばかり目が向いていた将棋界への、一つのアンチテーゼと言えないこともないのである。

特集「新記録達成!『14歳の天才』に敗れた『14人の棋士』インタビュー 我、『藤井聡太』にかく敗北せり」より

週刊新潮 2017年7月6日号掲載

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