百田尚樹「私の発言のどこがヘイトなのか」 講演会反対グループの正体

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■秘密警察さながら

 ARICの代表はもともとは、「在日コリアン青年連合」という組織に所属し、一昨年3月にARICを設立しています。大学院では、慰安婦問題の急進組織「挺身隊問題対策協議会」と関係の深い教員の指導を受けており、彼らとほぼ同じ考えの人物のようです。

 実際、彼の著書を読むと、朝日新聞が慰安婦報道を捏造していたというのは間違いで、むしろ、ヘイトスピーカーのデマによって朝日が攻撃されていると決めつけている。しかし、3年前、朝日が慰安婦報道の誤報を認め、記事を撤回し、社長が謝罪したことはご存じのとおり。いかに事実を無視し、偏った考えの人物かよく分かります。

 また、昨年、北朝鮮が核実験を強行した際には、被爆者や在日同胞までもが反対の声を上げているのに、彼がメディアに寄せたコメントがこれです。

〈このような事態を口実に、政治家らがレイシズム(人種差別)を助長するようなことがないか懸念している〉(朝日新聞2016年9月9日)

 真っ先に懸念すべきは、無謀な核実験のはずです。

 しかし、私がもっと驚いたのは、今回の講演中止を問題ではないと言う有名人がいることでした。

 漫画家の小林よしのり氏は、「言論弾圧とは権力が民間に対して為すもので、これは言論弾圧にあたらない」という趣旨のことをブログで発表しましたが、これは無理があります。「言論弾圧」は何も権力がするものだけとは限りません。

 かつてオウム真理教が自分たちに批判的な毎日新聞を攻撃し、また、小林氏の殺害を企んだという事例を忘れてはなりません。

 さらに私を呆れさせたのは、ARICの「講演中止」のツイートを、民進党の有田芳生議員が、自らのツイッターで、わざわざ「キャンペーン」と銘打ち、「賛同をお願いします」と書いて拡散させていたことです。いやしくも国会議員が「言論弾圧」に「賛同」し、キャンペーンするとは有り得ないことですが、有田氏も以前から「対レイシスト行動集団」と行動をともにしていることから、確信的なツイートであると思います。

 今回の一件は、第三者から見れば、学園祭での一作家の講演が中止になっただけ、と言えるかも知れません。私にしてみれば、表向きの“損害”は、スケジュールに穴が開いたぐらいのことでした。

 しかし、この事件は怖ろしいものを内包していることを忘れてはなりません。というのは、これが前例となり、ARICのような団体が、自分たちの気に入らない人物の発言を封じてしまうようなことが常態化する危険性を孕んでいるからです。

 実際、ARICは私の講演会を中止に追い込んだ後、驚くようなことを宣言しています。

「私たちは差別・極右活動のない学祭実現のため、10日当日に、差別監視活動を行うことにしました。差別・極右活動の発生を監視し、発見ししだい記録と通報(KОDAIRA祭と大学当局、悪質なものは法務省など)を行います」

 秘密警察さながらに、学生たちの言動を監視し、法務省に通報すると言っているのです。私はこの宣言文を見て、かつてのスターリンの秘密警察を連想して、身震いしました。

 今回の事件は大学内での出来事です。しかしこれを放置すれば、やがて一般社会でもこういう事態が起こらないとは限らないのです。

 気が付けば、自由に発言できない空気が生まれているかもしれません。そうなった時には、もはや手遅れなのです。

緊急寄稿「なぜ私の『一橋大』講演会は潰されたのか 実行委メンバーをノイローゼに追い込んだ『言論弾圧団体』――百田尚樹(作家)」より

週刊新潮 2017年6月22日号掲載

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