“9秒台”にまた1人 記者もノーマークだった「多田修平」の師匠

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ノーマークだった(写真はイメージ)

 9秒94──追い風4・5メートルの参考記録とはいえ、日本の競技場で日本人が初めて100メートル9秒台をマークした。6月10日に行われた日本学生個人選手権準決勝でのことである。これまで追い風参考ながらも9秒台を出したのは桐生祥秀(21)とケンブリッジ飛鳥(24)の2名だが、いずれも海外で走った際のものだ。

「その人、多田修平(20)は関学大の3年生。正直言うと、私たち記者の多くも、先月21日に行われた“セイコーゴールデングランプリ川崎”まで全くのノーマークでした」

 とスポーツ紙陸上担当記者が頭を掻く。

「高校時代も無名でしたし、去年は故障続きだったそうですからね。ただ、100メートル10秒00の日本記録保持者であり陸連強化委員長の伊東浩司さんは才能に気付いていたみたいです」

 川崎の大会は、リオ五輪メダリストの山縣亮太(25)が故障でドタキャンし、1枠空いてしまった。

「そこに、伊東さんがゴリ押ししてねじ込んだのが多田。リオ五輪銀のガトリンをはじめ、ケンブリッジ、サニブラウンなど有名選手が一堂に会する注目のレースで、私たちは“誰?”と不審に思ったのですが……」

 号砲が轟くや、記者たちは目を剥いた。

「絶妙なスタートダッシュで、50メートル付近までガトリンに先んじた。結局3位でしたが、レース後、ガトリンが“素晴らしいスタートを切った選手がいた”と、2位・ケンブリッジを差し置いて絶賛しました。なんでもスタートは、今年2月に渡米した際に、パウエルに教えてもらったのだとか」

 元世界記録保持者が“師匠”というから恐れ入る。

 9秒94の後、多田は、同日行われた決勝で日本歴代7位タイの10秒08をマーク。

「実は、専門家はこちらのレースの方を高く評価しています。追い風とはいえ9秒で走れば筋肉の消耗は著しい。にもかかわらず次のレースでこの好タイム。恐るべきポテンシャルです」

 24日、世界陸上ロンドン大会代表選考を兼ねた日本選手権が楽しみである。

週刊新潮 2017年6月22日号掲載

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