オノ・ヨーコの「幻覚型認知症」 実弟が病状告白 

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■実弟が病状を告白「オノ・ヨーコ」の幻覚型認知症(上)

 120歳まで生きたいと口にしていた女傑オノ・ヨーコ(84)に幻覚型認知症が忍び寄っている。世界を股にかけるバイタリティも、亡夫ジョン・レノンから引き継いだ巨万の富も、その侵食を阻むことあたわず。実弟による病状の告白が人生の無常を訴えかける。

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 風が吹けば桶屋が儲かる的に、「哀れな女」にまつわる警句を詩でまとめたのがフランス人画家のマリー・ローランサンである。

 かなしい女は退屈な女より哀れで、不幸な女はもっと哀れでと続き、堀口大學訳だとこう締め括られる。

 死んだ女より
 もつと哀れなのは
 忘られた女です。

 亡くなっても世界は忘れることはない。けれど、逆に世の中のことを忘れつつある女について、20世紀前半に活躍したこの画家が言及することはなかった。21世紀も16年を経て超長寿社会を迎えた今とは違って、認知症がそこまでの脅威たり得なかった、そういうことだろう。

 世界で最も有名な日本人のひとりであるオノ・ヨーコは、差し当たって病を養っている。

 彼女が、NYセントラルパーク西側の自宅アパート「ダコタ・ハウス」内で倒れ、近くの病院に搬送されたのは昨年2月26日のことである。

「脳卒中」という速報が打電され世界中を慌てさせたが、息子のショーン・レノンが「脱水症状と過労。彼女は大丈夫」と否定し、その翌日、彼女は退院した。

 この騒動とは、病とは果たして何なのか。

 それを打ち明けてくれたのは、他ならぬ実弟の啓輔氏(80)。ヨーコは3人きょうだいの一番上で真ん中が彼、3番目が世界銀行で活躍した節子さんである。

 東海道本線の辻堂駅(神奈川県)を背中にして南へ。サーファー通りを海水浴場方面に向かって15分も歩くと、口腔内にしょっぱさを感じるようになる。白い石造りのマンションのエントランスを潜った1階ロビーに、杖をつきながら啓輔氏が現れた。

「ウチの姉は日本を知らないからね。日本のビジネスも会社も知らない。それこそ、トヨタといすゞの違いなんかも、知らないしね」

 そんなこんなを問わず語りに口にする元商社マンの言葉を借りれば、

「姉の体調は良くない。良くないのは当たり前なんだよな。85歳になろうとしている人間がだね、“体調がいいです”なんてことは少ないよ」

 ということになる。

「確かに(今年1月に)反トランプのデモに出たり、アイスランドで光の塔を作って(毎年恒例の)セレモニーをしたり、結構そういうのやってんだよ。一見エネルギッシュかもしれないけど、実際は違うなぁ。最後に会ったの? 今年の1月中旬かな。日本に来たの。あとで分かったんだけど、体調が良くないから医者に診てもらうのが目的。だけど、病院には行かなかったと思う。行ったって聞いてないから。姉が西洋医学で診断された病気はね、東洋医学の方では進まないようになる(進行を遅らせる)可能性があると。看護婦さんやお手伝いとか車椅子を押すのがいるから、症状をあまり言わないんだよ」

 では病名は?

「DLBという認知症らしいんだ。本人も認識しているよ。尿漏れがどうとか忘れっぽくなったとか、そういったこと言いたがらない女の人がいるけど、姉はそのタイプ」

 DLBとはレビー小体型認知症を指す。その説明や東洋医学絡みの話についてはあとで専門家に委ねるとして、とにかく彼の告白に耳を傾けよう。

「ヨーコっていうより、子どものショーンから聞いたんだよね、俺は。去年の2月の一件はインフルエンザということだった。DLBだと分かったのは、去年の5月か6月かそのへんだけど、今から考えると2月の段階ですでにそうだったんだな。ショーンに音楽活動はどうするんだよって聞いたら“ストップする”って感じで。(母親の介護のためとか)そんなにハッキリとは言わないけどな」

 1月の来日時の会話に話を振ると、

「雑談だよな。今後の活動? それはないな。そんなに余裕ないと思うな。(宿泊する)ホテルの部屋から看護婦っていうのか2人と来て、“私はもう車椅子なのよ”なんて言ってた。“俺はもう杖だよ”とね。写真を撮ろうって時はちゃんと立っていたよ。80歳を過ぎた老人というのは何があってもおかしくないんだよ。いずれは分かってしまうことだからな……湯川れい子さんとはお会いしたことある? 日本の有名人のなかでは一番、親しいよ」

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