「ベトナム少女」殺害犯は地域社会も殺した “性善説が通用しない”時代

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 灯台下暗しというべきか。可憐な少女を手にかけたのは、あろうことか地域の顔として知られた男だった。千葉県松戸市のベトナム人児童殺害事件で4月14日、死体遺棄容疑で逮捕された渋谷恭正(46)。その凶行は、尊い命のみならず地域社会をも抹殺してしまったのだ。

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渋谷恭生容疑者

 渋谷が昨年4月から会長をしていた保護者会「二小会」は、もっぱら通学児童の父母らによる組織ではあるが、学校側と連携して活動し、実質的にはPTAに等しい。

 千葉県PTA連絡協議会の西山雅夫事務局長は、

「この保護者会は私どもの会には加入していませんが、それ以前に、身近な大人が地域の子どもに手を出してしまうこと自体が言語道断で、強い憤りを覚えます」

 PTAメンバーであったり町のボランティアであったりと、地域ごとに態様は異なるものの、見守り活動に長らく従事してきた人々もまた、憤りを隠さない。金沢市発祥の全国子ども見守りボランティア協議会の平寿彦代表理事は、

「私たちは2001年6月の大阪・池田小の事件をきっかけに活動を始めました。以来16年、現在では全国で約300万人がボランティアで活動しています。松戸の容疑者は、会長という立場を利用し、下心を隠して見守りをしていたのでしょう。とんでもない話です」

 今回の事件の通学路も、視察に訪れたという。

「これまで、いずれも小1の女の子が殺された奈良や広島、栃木などさまざまな現場を見てきました。リンさんの現場と同じく、そこには共通項がある。『防犯パトロール中』などの看板がない点と、今まで凶悪事件がなかったという点です。こうした場所で事件が起きると、地域の皆さんは必ず『静かな住宅街で』『治安のいい場所なのに』と嘆きますが、過去に犯罪が起きた場所ほど防犯意識が高く、平和に見えるエリアこそ危ないのです。看板は、地域の防犯意識の表れ。設置するには場所もお金も必要ですが、住民の意識が高まれば『お金を出し合っても掲げよう』となるのです」

 学校安全を所管する文部科学省健康教育・食育課の中村徹平課長補佐も、

「誰もが最も安心でき、善意を根拠に活動しているはずの見守り員による犯行は、全くの予想外。省内でも衝撃が広がっています」

 そう前置きしつつ、

「容疑者はまた、地域の人間でもありました。通常、地域コミュニティーに属していることが一種の抑止効果になるはずですが、彼にはそれが効かなかった。こうなると、誰を信用していいか分からなくなります」

 通学路でよく知る大人から声を掛けられれば、防ぎようがないのだろうか。

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