単なるホームドラマで終わらない所に見るWOWOWの実力(TVふうーん録)

エンタメ 芸能 週刊新潮 2017年4月13日号掲載

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 いまさらだがWOWOWに加入した。見逃してしまった映画も舞台もドラマもあっけなく手に入る喜びと恐ろしさ。アマゾンプライムも含め、視聴環境を整えつつある春。気づいたら朝、の繰り返しで、睡眠不足だ。

 若手や新人の登竜門として、シナリオ大賞的なものは各局にあるのだが、大概は作りがやや甘い。時折、めちゃくちゃ面白い作品もあるのだが、頻度は少ない。WOWOWもそんなもんかなと思っていたら。面白かった……セリフが今っぽくて、素直に面白かった。こりゃスルーするわけにはいかないなと思ったのが「稲垣家の喪主」である。

 主演は子役の金成祐里(かなりゆうり)。あがり症の自分に嫌気がさしている小学2年生の男子だ。祖父の葬式で喪主として挨拶をする父(佐藤貴史)が、緊張でグダグダになる姿を目の当たりにし、あがり症は遺伝だと諦観する。

 佐藤は長男で、いわば一家の大黒柱。その割に家庭内では権威ゼロ。同居している姉の広末涼子にはいつも詰(なじ)られ、弟の森山未來からも馬鹿にされている。広末は元キャリアウーマンだが、現在は無職、貯金ナシの独身。森山は漫画家を目指し、数え切れないほどの持ち込みをしたものの、箸にも棒にもひっかからず、くすぶっている。おまけに恋愛モラトリアム中の独身。

 金成は子供ながらに、伯母と叔父をどうにか結婚させようと試みる。もし自分の両親が死んだら、伯母と叔父の葬儀で、自分が喪主を務めなければいけないからだ。あがり症の子供の視点を発端に、物語が進む。

(c)吉田潮

 まず、長男・佐藤が醸し出すリアリティである。イタメシ屋を営み、親と二世帯住宅を建て(ただし費用は4分の1しか出していない)、家計を支える大黒柱でありながら、この家においては下僕扱い。その理由は無神経だから。姉や弟、妻にも上から目線の発言をして四面楚歌状態。それでいて父権を振りかざそうとする悲しき空回りは笑える。

 広末は、実は男に金を騙(だま)し取られた過去がある。同じ男に騙された女(真面目を絵に描いたような紺野まひる)とのやり取り、友情の育み方も興味深い。彼氏を略奪されるわ、うっかり妻帯者と懇(ねんご)ろになるわ、男運が悪くてやさぐれた女は、広末適役。詐欺男(デビット伊東)と対峙する場面では、詐欺被害者の痛いところを突くセリフが胸を抉(えぐ)る。

 また、広末に好意を寄せるバツイチ男(吉沢悠)の存在も生々しい。父親の暴力に怯えて育ったため、子供をもつと自分も同じように暴力を振るうのではと懸念している。「子孫拒否」というやつで、実際に男性不妊の要因のひとつでもある。

 子供目線のホームドラマの割に、ぶちこんであるモノが実は濃厚。家父長制崩壊・キャリア離脱の女・恋愛モラトリアムの男・パラサイトシングル・結婚詐欺被害・暴力連鎖の不安に子孫拒否。なんて書くと、重厚な社会派作品に見えるね。

 でも全体的にはほんわかムード。くすっと笑えるセリフも多くて、誰も不幸にならないし、イヤな気持ちにもならない。ふんわり心が温まる良作だったと思う。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。