どうして私の気持ちを分かってくれないの──不妊治療・妊娠のタイムリミットをめぐる夫と妻の温度差

社会 2017年3月2日掲載

 人気アナウンサーの赤江珠緒さんが第1子妊娠を発表した。現在、妊娠5ヶ月。初夏の出産に備え、3月いっぱいで現在パーソナリティを務めるTBSラジオの人気番組「たまむすび」を降板し、産休に入る予定だという。赤江さんは現在、42歳。結婚9年目にして授かった待望のベビーのため、「復帰できればいいけれど、高年齢出産だし、復帰できるかは今の段階では決められない」と帯番組のパーソナリティへ復帰するかどうかは出産後に考えることを明かした。

 40歳代の自然妊娠での着床率は5%前後と言われるが、41歳と42歳での着床率はさらに下がると言われている。

「日産婦誌52巻9号、高齢不妊婦人の問題点」(日本産科婦人科学会)掲載、図表「加齢に伴う卵胞数の変化」より

 都内に住む38歳のA子さんは、夫が好きだと言っていた赤江さん懐妊のニュースを聞いて、何とも言えない複雑な気持ちになったという。

「よかった、42歳でも妊娠できるんだ! 私だってまだ大丈夫」という前向きな気持ちと、「他の誰がいくつで妊娠したって、自分に赤ちゃんが出来るかどうかとは何の関係もない!」という黒い気持ちだ。

 ギリギリ20代の終わりに2歳年上の夫と結婚した当初は、「結婚したんだから、そのうち子供が出来るでしょ」というようなフワフワした気持ちでいた。夫の「もうちょっと二人の時間を楽しもうよ」という提案に心の底から賛成していたし、お互い仕事をがんばりながら、海だ山だ海外だとレジャーに出かけ充実した日々を過ごしてきた。

 だが33歳の誕生日を迎えんとする頃から、そろそろ子作りを真剣に考えたいA子さんと、そのうちできるってという姿勢を崩さない夫との間にすこしずつ気持ちのズレが出てくるように……。

 次々と舞い込んでくる友達の出産報告にA子さんが焦りを隠せずにいても、「いまは40歳とかになってから産む人もたくさんいるじゃん。俺らももう少し頑張ったら出来るって」と夫はのんびりした構えのまま。しかも「この日こそ!」というジャストタイミングの夜に飲み会を入れていたりするのだ。

 A子さんは去年、35歳になったのをきっかけに不妊外来を受診したが、一緒に受診して検査をしてほしいと夫に打診したところ「俺も?」とびっくりされたことにびっくりしたという。

 40歳で長男を出産した漫画家の小林裕美子さんも、「先に進みたい自分」と「まだいまのままでいい夫」の気持ちのすれ違いに悩んだ一人だ。

 学生時代に夫と知り合い、お互いの仕事と趣味を優先しながら楽しい結婚生活を送っていた小林さんが「やっぱりお母さんになりたい!」と考え始めてから取り組んだのが、夫との子供に関する意識のすりあわせだった。

小林裕美子さんの著書『それでも、産みたい―40歳目前、体外受精を選びました―』より

 刻一刻と「母胎」としての自分にタイムリミットが迫ってきているのを肌で感じている妻と、頭では分かっていても妊娠をどこか他人事と捉えている夫──小林さんは夫婦で育児に取り込むのだから、お互い納得した上で子供を迎えたいと考えた。

・そもそも本当に子供がほしいと思っているのか。
・自然妊娠が難しければ、不妊治療に進むのか。
・不妊治療ではどのステップまで試すのか。
・不妊治療に使う金額の上限はどのくらいか。
・もしそれでも授からなければ、養子をとるという選択肢についてどう思うか。

 小林さんは39歳の時に体外受精で男の子を授かったが、不妊治療の過程や妊娠、出産するまでには、幾度も夫婦の意見に食い違いがあったという。その過程や思いをコミックエッセイ『それでも、産みたい―40歳目前、体外受精を選びました―』にまとめた。

 小林さんは「子育ては夫婦でやっていきたい。だから私の意見だけを無理に押しつけるのも違うなと思って、いろんな局面で話し合いました。妊娠に対する私の焦りを分かってもらえずイライラしたこともありますが、治療が上手く進まなかったときなど、落ち込みがちな私と違って、あっけらかんとした夫のポジティブ思考に救われたこともあります。なににせよぼんやりしたイメージではなく、正確な情報や数字に基づいたり、第三者の客観的な意見の方が男性の頭には入りやすいので、妊娠に関する書籍や雑誌を示しながら話した方がスムーズにいくことが多いと感じました」と話す。

 高年齢出産という言葉をよく耳にしてはいても、男性は「いくつからが高年齢出産なのか」を知らなかったりするとも聞く。

「そんなに焦らなくてもいいんじゃない?」という夫をその気にさせるのは、可愛い赤ちゃんの映像より、「加齢に伴う卵胞数減少」を表すグラフなのかも知れない。

デイリー新潮編集部