トンネルも橋も崩壊寸前! 大赤字「JR北海道」を救う方法

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■「鉄道復権」は本当にありえるのか

――鉄道に拘らなくても自家用車やバスで移動すればいいということではないのでしょうか?

「中核都市を結ぶ都市間交通を鉄道から自動車交通に転換するというのは、輸送効率や環境、移動手段としてのクオリティを考えても、現代の先進国では考えられないことです。地域の足としてみた場合も、子供や高齢者は車を運転できませんし、冬場には道路が積雪・凍結するので、鉄道は信頼性の高い移動手段として有効です。それに北海道の場合、物流を支える動脈としても機能しており、今後トラックの人手不足が深刻になると、鉄道の役割は大きくなるはずです」

――そうは言っても、いまは国も自治体も予算に余裕がありません。

「現在、高規格幹線道路の整備に費やしている巨額の予算を、もう少し鉄道に回すようにすればいいでしょう。〈一層の道路の整備促進を図る〉場合の建設費、今後の維持管理費をしっかりと開示してもらえれば、JR北海道全体の欠損額と比較しても、桁違いであるということがわかるはず。道路の予算と鉄道の予算はあまりにもアンバランスで、それを是正すべきです。たとえば、オーストリアは北海道とほぼ面積が同じで、人口密度も北海道より少し多いぐらいです。かつては連邦の道路支出と鉄道支出は拮抗してましたが、今では鉄道支出が道路支出のほぼ2倍に増えています」

――なぜ外国では鉄道にそこまで税金を投入するのでしょうか?

「『鉄道復権』でも詳しく描きましたが、交通経済学の知見に従って便益計算を積み重ねていくと、単なる移動手段としての便益以外にも、環境や沿線地域に対する効果があり、鉄道はわれわれが思っている以上に地域経済に貢献していることがわかります。だからこそ欧米では〈上下分離方式〉の導入は当たり前、さらに鉄道に投入する公的予算をどんどん拡大していく傾向にあるのです」

――うーん、日本にいると、「鉄道復権」なんて話はにわかに信じがたいのですが……。

「それは日本人がいつまでも〈運賃収入でインフラ維持管理も含めて黒字経営〉という古いビジネスモデルに拘っているからです。アメリカでは、中心部の公共交通をすべて無料にし、それによって地域経済を活性化させて、全体の税収を増やそうとしている地方都市もあります。日本でも鉄道事業者も行政も、柔軟かつ大胆な発想で、新たな鉄道ビジネスの地平を切り開いてほしいと思います」

宇都宮浄人(うつのみや・きよひと)
関西大学経済学部教授。1960年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。1984年に日本銀行に入行。2011年に関西大学経済学部教授に就任。著書に『鉄道復権』(新潮選書、第38回交通図書賞受賞)、『路面電車ルネッサンス』(新潮新書、第29回交通図書賞受賞)、『地域再生の戦略: 「交通まちづくり」というアプローチ 』(ちくま新書、第41回交通図書賞受賞)など。

デイリー新潮編集部

2017年2月17日掲載

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