「大メディアの偏向報道」の底にあるのは「無知」 青山繁晴・百田尚樹の「大直言」対談③

社会2017年2月10日掲載

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■トランプと佐藤栄作

 トランプ大統領が、就任後もツイッターで頻繁に発信をし続ける一方で、記者会見に積極的ではないことの背景には、既存のメディアへの不信感がある、というのが一つの定説となっている。トランプ大統領自身、その不信感を隠そうとはしていない。選挙戦中にあれだけ自分のことを悪く言った奴らを信用できるか、ということなのだろう。

作家・百田尚樹氏

 既存の大メディアへの不信感というのは、今に始まった問題ではない。安倍首相の大叔父にあたる佐藤栄作首相が、退陣表明会見の時に、新聞を排除して、テレビカメラに向かって話したのは有名な話だ。偏向的な報道をする新聞に話すのではなく、テレビの向こうの国民に直接話したい、という論理は、どこかトランプ大統領のツイッター発信に通じるところがある。

 こうした「メディアの偏向」をどう考えればよいか。参議院議員で作家の青山繁晴氏と作家の百田尚樹氏は、対談をまとめた新著『大直言』で、この問題を正面から論じている。以下、同書から引用してみよう。

 ***

青山 メディアが偏向しているんじゃないか、といったことはよく指摘されます。この場合のメディアとは新聞、テレビが中心ですが、この点についてお話ししてみたい。

 年末に知人のテレビ局幹部と会ったときのことです。本来の用事とは別の話で、その方が仰った言葉が非常に印象的でした。安保法制に関連して「うちの局のニュースはちょっと違うんじゃないかと思う。SEALDsのことばかり報じていた」と仰る。その幹部はずっと報道畑にいた方です。

 そう言うと、報道が偏向している、とかそういうことを言ったのかと思われるかもしれませんが、そうではなかったんですね。

「いや、偏っているという話じゃないんです、青山さん。取材する側が浅いところだけ、目に見えるところだけやっているから、SEALDsばかりになってしまう。

 本当はもっと青山さんがふだん仰っているような“根っこ”の問題を扱いたい。しかし、そうならないのは偏向のせいではなくて、浅いところでお茶を濁しているからなんです。ここが今のメディアの頽廃的なところなんです。

 学者や評論家の中には、そういう浅い議論に合わせて話をする、テレビに出たい人がいるから、ついそういう人にお願いしてしまう。そういう人を使って、浅い報道をしているというのが現状です」

 これを聞いて、ぼくはちゃんと考えている人はいるんだなと思ったわけです。

 これは安保法制に限った話ではなくて、要するにあらゆる問題について根っこのところを考えようとしていないことの害です。なぜ戦争をしたのかだけではなく、なぜ戦争に負けたのか。負けたあと、日本は本当はどうしたのか。そういったことへの考察がない。

 これまではそれでも良かったのでしょうが、ネットが普及して、ユーチューブなどでも番組が放送できるようになると、旧来型のテレビは放っておいても自壊しかねない。しかしおかしな方向に自壊しないようになればいいが、と思っています。

百田 テレビの報道の連中は、あまり何も考えていない感じがします。浅いというか、朝日新聞などが言っていることを、そのまま信じている報道マンが多い。

 個人的な例ですが、私の知り合いでバラエティから報道に異動したディレクターがいました。その男が、報道部の人たちと話をした際、安保法制の話になったので、「いろいろ反対はあるだろうけど、この法律を通さなければならないというのは正しいよね」と口にしたら、全員から「お前、何言うとんのや」というようなことを言われたそうです。

 それでちょっとしたカルチャーショックを味わったそうですが、じっくり話してみると、皆、実はあまり安保法制のことには詳しくないことがわかった。ただ、それでも何となく反対。なぜ反対かといえば、何となく「反対が正しいだろう」と勝手に思っているだけ。

 そういう人は、たとえばNATOのこと一つとっても知らない。NATOは言うまでもなく自国の平和安全のための軍事同盟ですが、その基本にあるのは集団的自衛権、集団安全保障という考え方です。それが結果として大きく戦争抑止に役立っている。しかし、その程度のことを知らない。

 そうなると安保法制が戦争抑止につながるということは理解できません。そして、何となく「戦争法案」という誰かが言いだしたようなレッテルをそのまま信じてしまう。そして、その線でニュースをつくろうか、となる。 

■テレビの影響力は侮れない

参議院議員・青山繁晴氏

青山 今でも本物の左翼の人もいるにはいるんです。特に新聞には多い。でも、テレビなどでは実は偏向するほど考えてもいない、という人の方が多いんじゃないでしょうか。そういう人が「権力の批判だから、安保法制反対がいい」という程度の思考で番組を作る。

 ネットの時代だから、テレビの影響力は低下する一方なので、そんなに大したものじゃない、という声もありますが、そんなことはありません。

百田 テレビの影響力は依然、大きい。私はテレビで長年飯を食ってきた人間ですから。でも今、どんどんテレビ離れは進んでいるというのは事実です。その一因として、インターネット等を中心に、「テレビの情報は信じられない」という考えが浸透したことがあるでしょう。それでテレビから離れる人が増えている。これは事実です。視聴率はどんどん落ちています。

 ただ、問題は、それでもずっとテレビに残ってる人がいるんです。どういう人かというと、インターネットには興味ない、新聞にもあまり興味ない、何となく1日中テレビをつけている……そういう人たちは、手に入る情報の100パーセントがテレビからなんです。

 そして、実はこういう人が今でも、数でいうと、マジョリティなんです。テレビ局もそれを知っています。

 たしかに一部には非常に情報に強い人もいるでしょう。ネットで、自分から情報を探す人、あるいは書籍で勉強していく人等々も増えてはいます。

 でも、こういう人たちをあえて相手にしなくても、ただ、自分たちが言うてることをそのまま受け取る人間も非常にたくさんいる。数で言えば、そっちのほうが多い。だから自分たちの言い分をそっくり聞いてくれる人たちに向けて、彼らにウケがいい番組、報道を流す。テレビ局はそういう方針でつくっています。(中略)

 しかも、日本のメディアは、ここ20年、30年、「揚げ足取り」の傾向が強まっているように感じます。政治家批判、あるいは企業批判にしても、ものすごく細かい揚げ足取りをしますね。本質に突っ込んでいかない。会見などでの表現が少し配慮が足りなかった、乱暴だった、というだけで大騒ぎをして批判をする。

 ここ2、30年ぐらいで、大臣のクビが何人も飛びましたけど、ちょっとした言葉の揚げ足取りがかなり見られました。

 その人の本質的な思想の問題まで入ってないんです。ただ、何となく、表現上、問題がある言葉をポロッと言うただけで、もう、一斉砲火で、大臣辞めなあかんというところにまで追いつめられる。しばらく前も、福祉関連の講演で、女性を「産む機械」とたとえただけで全マスコミから猛批判を浴びた大臣がいました。彼は「機械にたとえるのはよくないけど」と前置きしたうえで、あえてわかりやすいたとえ話をしただけなのに。

 また、反語的表現をしても、反語的表現ととらないで、批判するケースもあります。麻生太郎副総理が、「憲法改正は、ナチスの手法に学んだらどうか」と発言した時がそれですね。あれは、結局、ナチスのような悪いことをしたらあかんよという意味で言ったのに、「ナチスの手法に学ぶとはどういうことだ!」といちゃもんつけられた。揚げ足取りがすごいですね。というか、言葉の理解力があるのかと言いたくなりますね。

 わたし自身も、むちゃくちゃやられてますからね、ほんまに。

 講演や私的な勉強会、あるいは選挙応援の時に言った、ちょっとした一言が新聞から批判される。しかし、わたしの講演なんて、ものすごい早口で1時間半喋りつづけるんですよ。普通の人の情報量の倍ぐらい喋る。そこには、ギャグもあるし、冗談もあるし、反語的表現もある。その一部だけを突かれたらたまりません。

青山 しかし、政治家と違って、百田尚樹さんは失脚しないから大丈夫ですよ。逆に、本がいっぱい売れてるんだから。

百田 いや、本もね、だいぶ、朝日のお陰で、売れ行き減りましたわ。

青山 いやいや、朝日のお陰で増えてる面だってあるかもしれませんよ。

百田 そうか。ほな、朝日さん、また、よろしくお願いします(笑)。

デイリー新潮編集部