なぜ人工知能は東大に合格できないのか? 「東ロボくん」プロジェクトで分かったAIの弱点

IT・科学週刊新潮 2017年2月2日号掲載

■なぜ人工知能は東大に合格できないのか?(上)

 いずれ人工知能(AI)が人間の能力を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)が訪れる、とまことしやかに語られる昨今。であればAIが東大に合格するなど簡単そうだが、挑戦してわかったのは、AIの弱点だった。プロジェクトを率いた新井紀子氏が明かす。

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 ロボット(AI)は東大に入れるか――。AIの東ロボくんが挑んできたプロジェクトに一区切りがついた。この5年間、毎年模擬試験を受け、偏差値も少しずつ高くなり、有名私大に合格できるレベルには達したが、東大合格レベルに届く見通しは立たないという。ある種の問題には対応できても、所詮AIには読み解けない問題が数多く残ることがわかったのだ。

 むろん挑戦が無駄だったわけではない。新井教授によれば、浮き彫りになったのは近未来への意外な不安だったという。

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 人工知能(AI)には、できることとできないことがあると思っています。シンギュラリティは起きませんし、AIのおかげで人間が労働から解放されることもない。とはいえ今後、一定の仕事はAIが代替するようになるはずです。そのことをわかりやすく伝えるために「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトを始めたのです。

 事の始まりは2010年、私が『コンピュータが仕事を奪う』という本を書いたことです。国立情報学研究所(NII)には、画像処理や画像認識、音声認識や音声合成、自然言語処理、ロボティクスなど、今日AIとして一括りにされている分野の研究者が大勢います。09年当時、私は数学者としてこの人たちと話して、彼らの言うことが10%でも達成されれば、いまのホワイトカラーの仕事の半分程度はAIに代替されてもおかしくない、と思った。そこで1年かけて、そのことを本に書いたのです。

 実は、これは同様の予測としては世界で初めてのものでした。ところがこの本は書店で、ビジネス書ではなくSFの棚に置かれてしまった。10年にはまだ、日本人がだれもそんなことを考えなかったのです。しかし、私が書いたのは必ず訪れる未来像。日本人がAIに対して無策のままそういう状況に突入したらどうなるでしょうか。

 世界が今のまま続いていくと思っている教育界はもちろん、企業も政策も変わらない間に、お金もデータもAIを開発したところに集まってしまう。AIはどこでサービスをしてもインターネットを介して利益を得られるからです。日本の企業がそれに対応できなければ、買収または吸収されてしまう。サービスの対価として日本から吸い上げられたお金も、外国へ行ってしまいます。

■労働の二極化

 それでも労働は残ります。残るのはまず、AIを使いこなしてAIには不可能なことを実現する、高度なクリエイティビティ能力と重い責任を要する労働。残りは、KYすなわち空気が読めないAIにはできない労働。人間にしかできないことがあるので、それを低賃金で下働きさせる、という理由で残ります。

 つまり、今存在している仕事全体から真ん中部分がAIに奪われ、人間が担う労働は上と下とに二極化されると思います。結果、ただでさえ少子化なのに、失業と人手不足が同時に起こるという最悪のシナリオが現実になり、とくに高度なほうの仕事に就く人が不足するのではないか、と危惧を抱いたのです。

 AIには、実はたいしたことができませんが、データ分析や最適化はできます。つまり道具にすぎないけれど非常に高度な道具なので、AIには負えない責任を負いながら使いこなす人が不可欠です。ところが、このままではエネルギー問題を最適化したり、自動運転でリスクを分散したりするためにAIを使いこなす人がいなくなってしまうかもしれません。それは原発の説明書を読める人がいなくなるようなものです。

 そういうことを本に書いたのですが、だれも実用書だと思ってくれませんでした。そこで、毎年AIが勉強してそれなりの大学に入るようになったら、AIと人間の間になにが起こるのか、だれにでもわかるだろうと思ったのです。

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