【チリ現地取材】知人らが明かす“優等生”ニコラスの素顔 「おぼっちゃんという感じ」

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■筑波大留学生失踪事件 国際手配されたチリ人を追え!(下)

 フランス留学中だった筑波大生・黒崎愛海(なるみ)さん(21)の失踪事件。未だ身柄を確保されないチリ国籍のニコラス・セペダ・コントレラス(26)の足跡を追って、真夏のサンディアゴに入った。

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 黒崎さんの姿が最後に目撃されたのは昨年12月4日である。場所は、彼女が留学していたフランシュ・コンテ大学があるブザンソンから20キロほど離れた景勝地、オルナン。フランスの画家、ギュスターブ・クールベの代表作「オルナンの埋葬」で描かれたことでも知られるオルナンのレストランで食事をしたニコラスと黒崎さんは、午後11時過ぎに店を後にした。

「その後、2人はレンタカーでブザンソンに戻った。彼女が暮らしていた寮の玄関に設置された防犯カメラには、寮に入っていく2人の姿が映っていた」

 と、ブザンソンの地元記者は語る。

「日付が変わった5日の午前3時から4時頃、大きな物音とともに女性の悲鳴が鳴り響いたのを多くの寮生が覚えている。悲鳴は5〜6秒も続いたそうだ。ニコラスや黒崎さんが寮を出るところは防犯カメラには映っていない。カメラの死角をうまく利用して外に出たのだろう」

 フランスの捜査当局が事件の重要参考人としてニコラスを国際手配したのは昨年12月26日のこと。それよりずいぶん前に、彼は母国のチリに帰国していた。

■難航を極める捜査

「これまでの捜査で言えるのは、この若い女性(黒崎さん)はほぼ間違いなく死亡しているということ」

「自らの意思による失踪や自殺の可能性は捜査員の間で急速に退けられた」

 年が明けた後の1月3日、会見に臨んだフランス検察のルーモリゾー検事はそう述べ、ニコラスの逮捕状をとって行方を追っていることを明らかにした。

「彼にかけられている容疑は単なる殺人ではなく、“謀殺”。つまり、ついカッとなって殺したのではなく、綿密に計画された殺人ということ。フランスには死刑はなく、通常の殺人だと、最高で懲役30年。一方、“謀殺”の場合、最高で無期懲役となります」(ブザンソンの捜査関係者)

 殺人と断定した根拠について、モリゾー検事は会見で明らかにしなかったが、

「ブザンソンのホームセンターでニコラスが犯行に使ったと見られる電動工具を購入したことが分かっている。また、レンタカーなどの位置情報の解析から、ブザンソン近郊の『ショーの森』を移動していたことが判明しており、目下、捜索が続けられている」(同)

 ただし、その「ショーの森」は約2万ヘクタールにもおよぶ広大な森林で、すでに雪も積もり始めており、捜索が難航を極めているのは言うまでもない。一方、ニコラスが潜伏しているチリの状況はどうかというと、

「先日、チリの検察当局者が日本のメディアの取材に応じ、ニコラスの銀行口座などの情報をフランスに提供し、捜査を一旦終了したことを明かした。その当局者によると、フランス側からは、ニコラスの身柄の引き渡しを前提にした拘束は求められていないといいます」(チリで取材を続けるテレビ局関係者)

 かくして、殺人容疑をかけられながらも拘束を免れ、家族の庇護の元で潜伏生活を送るニコラスと、彼を追いかける日本のメディアの“にらみ合い”は長期化の様相を呈しているのだ。

■教育熱心な父親

 今もチリ中北部の街、ラ・セレナに潜伏している可能性が高いと見られているニコラス。彼が育ったのは、サンティアゴから南に600キロほどの場所にあるテムコという都市だ。テムコとは、先住民族であるマプーチェ族の言葉で、植物(テム)の水(コ)という意味だそうだ。地元の住民によると、マプーチェ族は少数ながら今もこの地に住んでおり、現状に不満を抱く若者が放火事件を起こすなど、時折、テムコの行政当局と衝突しているという。

ニコラスが通っていた「コレヒオ・センテナリオ・デ・テムコ」

 ニコラス一家がかつて暮らしていた家は、テムコの中心部から車で10分ほどの住宅街の一角にある。茶色のロッジ風の洒落た2階建てで、現在は別の家族が借りている。ニコラスの父親の知人で、この物件を管理している不動産会社のオーナーはこう語る。

「ニコラスが小さい頃に一度だけ、私のオフィスに遊びに来たことがある。父親と一緒にね。無口で賢そうな子だと思ったよ。父親は息子のことをとても可愛がっていて、自慢の息子だと言っていた。10年くらい前、父親の仕事の都合で引っ越して行った」

 ニコラスが通っていた「コレヒオ・センテナリオ・デ・テムコ」なる学校は、

「幼稚園から高校までエスカレーター式に上がれる、チリ有数の進学校です。小学校から高校では1学年二十数人の少人数制をとっており、チリ全土の成績ランキングでは、政府の助成を受けている私立校としてはナンバー1。学校全体で見ても、その成績はトップ30に入ります。ここの生徒はほとんど全員が大学に進学し、チリ大やサンティアゴ大などの難関大に進む子も多い」(同校に子供を通わせている父兄)

 同校のPTA会長を務めているマリア・イサベル・ハラ女史が振り返る。

「彼の家族に問題なんてなかった。むしろ、素晴らしい一家でした。お父さんは教育熱心で、PTA活動も熱心にやっていました。本人も優秀な生徒でしたよ」

■典型的な優等生

 3年前までこの学校の教師を務めていた人物は、

「ニコラスは頭の回転が速く、良い仲間に囲まれ、女の子にも優しく接するまともな子供でしたよ。彼が小学生だった頃しか知りませんが、成績は真ん中くらいでしたね。ニュースを見て、本当に驚いています」

 と言ってため息をつくし、同校の卒業生、ガブリエル・ダビットソンさんも、

「ニコラスは僕より5つ上の先輩だけれど、社交的で、礼儀正しく、後輩に対しての言葉づかいも丁寧なおぼっちゃんという感じでした。とにかく優しい先輩という印象が残っている。人と話をするのに物怖じしないタイプで、僕と同学年の女の子と付き合っていた、という話を聞いたことがある。彼の3つ下の双子の妹たちも同じ学校だった」

 と話す通り、典型的な優等生で、今回の事件に繋がるような“影”は全く見えないのである。

 これといった挫折を経験することのないまま最難関のチリ大に進み、2014年から15年まで筑波大に留学。そこでニコラスに出会って交際することになった黒崎さんが彼の素顔に気付いたのはいつだったのだろうか。ネット上に一方的に動画を公開、「条件に従ってもらう」「代償を払え」などと彼女を脅迫するような「裏の顔」に――。

特集「日本から1万7000キロ! 真夏の南米に記者派遣!『筑波大留学生失踪事件』国際手配されたチリ人を追え!」
より

週刊新潮 2017年1月19日号掲載

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