元日未明に80歳の母を刺殺…56歳息子の名門家庭

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 国内の刑法犯件数は目下、減少傾向にある。未遂を含む殺人の数も年間1000件を下回っているのだが、元日に発生したケースでは、これまで家族間のトラブルが大半を占めてきた。今回もまた、四国の閑静な住宅街で惨劇は起きていた――。

 ***

 古くから金刀比羅宮への参拝口として知られ、団扇の生産でも名高い香川県丸亀市。中心部には丸亀城がそびえ立つ。現場となったのは、その濠に面した3階建ての邸宅だった。

名家瓦解

 事件は、元日の午前2時10分頃に発生した。

「3階の寝室で、17歳の長男が父親に首を切りつけられ、異変を察知した母親から110番通報がありました。また2階の寝室では、祖母が首や肩などを切られており、間もなく搬送先の病院で死亡が確認されたのです」(香川県警担当記者)

 亡くなったのは川崎瑞穂さん(80)で、長男は全治4週間のけが。犯行に及んだ父の寛(ゆたか)(56)は、凶器とみられる出刃包丁を自宅に残したまま、軽トラックで逃走していた。

「丸亀署は、息子への殺人未遂容疑で寛を全国指名手配しました。逃走に使った『赤帽 川崎運送』と書かれた軽トラは、1日の19時頃、隣接する善通寺市内の路上で発見されました」(同)

 川崎家は、寛夫妻と1男1女、そして寛の母・瑞穂さんの5人暮らし。自宅が建つのは市内の一等地で、地域では教育熱心な名家として知られていたという。

■職場での変調

 地元住民によれば、

「寛さんの奥さんは市内の中学校の先生で、けがをした息子さんも中高一貫の名門私立高校に通っています」

 さらには、

「亡くなった瑞穂さんのご主人(故人)は15歳ほど年上で、岡山の旧制六高から東京帝大を卒業したエリート。長く地元の大企業『四国化成工業』で重役を務め、当時は丸亀市内でも、お歳暮の数が1、2を争うほどの名士でした」

 というのだ。市内の歴史ある造り酒屋から嫁いできた瑞穂さんも、そうした家柄を誇らしく思っていたようで、

「寛さんの小さい頃は『勉強させて、将来は(進学校の)丸亀高校から東大に行かせるの』と話していましたね」(同)

 が、現実はさにあらず。手配時の寛の肩書は「職業不詳」。軽トラックによる運送業者の共同体である赤帽の関係者は、

「彼は県外の学校を卒業後、地元に戻って就職。いくつか転職した後、5年前から赤帽の仕事を始めました。それまでは大手の物流会社でフォークリフトの運転をしていたのですが、転勤の辞令が出たことで嫌になって辞めたのです」

 赤帽では、本部に集荷された荷物を配送する仕事に従事していたのだが、

「4カ月ほど前、本人から『腰が痛いので仕事を辞めたい』と話があった。しばらくすると『やっぱり続けます』となったのですが、そんな体調も影響したのか、荷物の遅配が目立ち始め、お届け先に迷惑がかかるようになった。結局、12月中旬で退職しました」

 凶行が繰り広げられたのは、そのわずか20日ほど後だった。捜査関係者が言う。

「名門といわれた一家で大黒柱であるべきところ、職を失って居場所をなくしてしまった。そうした日々に不満を募らせた上での犯行と見ています」

 年は明けたばかりなのに、男の人生は早々に幕引きとなってしまった。

ワイド特集「年を跨いだ無理難題」より

週刊新潮 2017年1月12日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。