知的障害者施設で起きた妊娠中絶事件 「施設の対応に納得できない」母明かす

社会週刊新潮 2016年12月1日号掲載

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 知的障害者は全国で74万人。それぞれに「生」があれば、同じ数だけの「性」もある。横浜の知的障害者施設で働く女性が妊娠中絶する事件が起きていた。“相手”も同じ施設のメンバー。この事件の教訓とは。

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知的障害者施設で起きた事件、横浜市も把握済み(写真はイメージ)

「今でも私は施設の対応に納得できません」

 そう憤るのは、高島沙織さん(20代後半)=仮名=の母である。

 事件が発覚したのは、昨年12月上旬のこと。沙織さんは10年以上、この施設に通い、モノの製作などの作業に携わってきた。

「施設から“大事な話があります”と連絡がありました。伺うと、職員から“2階の会議室で松岡くん(仮名)がスパッツ、沙織さんがパンツを脱いだ姿でいるのを目撃しました”“過去に同じことがあったかもしれないので妊娠検査を受けてください”と言われた。急いで近所の産婦人科で診てもらうと、やはり子どもがいることがわかったのです」

 沙織さんは、ひらがな、カタカナは読めるが、漢字は「山」「川」程度。計算は1+1くらいしかわからず、自分の意思も「足、痛い」「お腹、すいた」など2語でしか表現できない。4段階のうち、上から2番目の重度の障害を持ち、IQは21〜35程。子育ては難しい。そう判断した母は“処置”できる病院を探した。しかし、

「障害者は無理、と3軒の病院で断られてしまったのです。いっそ無理心中しようかと思った矢先、ようやく引き受けてくれるところが見つかった。お腹の子は3カ月でしたが、年明けに手術してもらいました。やはり沙織は怖かったようで、その後ひと月くらいは私に当たり散らしたり、相手の男の子の名前を呼んだり、眠れない日々が続きました」

 男性の障害は上から3番目の中度。沙織さんとは同年配で、“友人”の関係だったという。

■想定不足

 手術後、沙織さんは同じ施設に復帰。松岡氏は別の施設に移った。

 が、母の心は千々に乱れたままだ。

「施設は“お互いに好意があった”と言う。しかし、5年程前に2人が一緒に帰った際、電車の中で男の子が娘の手を股倉に入れようとしたのを目撃した人がいる。沙織が嫌がると暴力まがいのことをしたそうです。今回の件も娘は脅されてそうなったと思っています」
 また、

「現場の会議室は施錠されていなかった。だからああいうことが出来る場になってしまった。施設がその責任を受け止めているようには思えません」

 母はこれらの点を文書で問い質しているが、納得する答えを得られず、今もやり取りが続いている。

 松岡氏の母を訪ねたが、「お話しすることはありません」。施設に尋ねても同様の回答であった。

 知的障害者の権利擁護に携わるNPO「PandA-J」の堀江まゆみ代表の話。

「障害者施設内での性トラブルは頻繁に起こっています。セックスの意味がわからない重度の知的障害者でももちろん“性欲”はある。しかし、私たちはそんなことはないと捉えがちで、こうした想定不足が施錠忘れの部屋などの死角を作り出してしまうのです」

 障害者の性を扱った『セックスボランティア』の著者でノンフィクションライターの河合香織さんも、

「知的障害者の性はタブー視される。しかし、障害者も特別ではなく、理解力に合わせて、当たり前のことを当たり前に教えられるべきだと思います」

 現実に起こりながらも報じられない、不可視な「不幸」の一断面である。

ワイド特集「希望とため息のストライプ」より