喫茶店には「分煙室」、例外は認めない「病院内禁煙」…禁煙原理主義の厚労省に各団体からの困惑

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 2020年の東京五輪に向けて政府が目指す「スモークフリー社会」。10月12日には「受動喫煙防止対策の強化について」を公表したが、注目は飲食店や職場での喫煙を一切認めない「建物内禁煙」を謳(うたって)っている点である。

 この“たたき台”には、違反した場合に罰則を科すとも明記。厚労省等役所側は関係各団体から「公開ヒアリング」を行ったが、その姿勢は極めて高慢なものだった。

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「抹殺」されそうな喫煙者

 ファーストフード店などの外食産業で組織される日本フードサービス協会は、10月31日の第1回ヒアリングに呼ばれて、

「喫煙者の多い男性客が中心の店もある。おもてなし精神で、吸う人と吸わない人の共存が大事」

 こう訴え、たたき台に基づいた一律法規制強化に異議を唱えたのだが、ヒアリングに出席した同協会事務局の石井滋氏が「厚労省不信」を吐露する。

「たたき台は寝耳に水でした。10月半ば頃に、うちの協会を認可した農水省からたたき台を示され、ヒアリングへの出席要請がありましたが、厚労省からの正式な出席要請は10月26日、それもメールで。あまりに急な話でしたし、問答無用の扱いだと感じました」

 このような御上体質に加えて、さらに、

「中小零細の喫茶店なんかは喫煙室を設置しろと言われても、スペースや費用面で現実的に難しい。もし法律ができたら、喫煙者の足が遠のき、売上げが減る店舗も出てくると思います。しかし、健康課長は『60本も70本も海外の論文を読んだが、全面禁煙で売上げが減少したところはない』と。でも、外国は外国です。それに、日本では完全禁煙にして売上げが25%近く落ちた居酒屋チェーンが現に存在します。厚労省は結論ありきだと感じます」(同)

厚生労働省

■「あまりに乱暴」

「元喫煙者」である宗教学者の山折哲雄氏は、

「正直に言って、私も煙草の煙を嫌だなと感じることはある。とはいえ、昨今の行き過ぎた嫌煙傾向は、原発事故で必要以上に放射能汚染を恐れ、いじめを誘発した『穢(けが)れ』の発想につながりかねません」

 とした上で、

「明治以降、日本は国際標準を自ら作り出す努力をしてこなかった。しかし、国際標準を黄金の尺度にする必要はない。外から来るものと内から湧き出すもの、ふたつの尺度があってもいいわけで、これからの日本には自身の標準を積極的に世界に示していくことが求められている。それを官僚は分かっていない」

 また第2回のヒアリングに呼ばれた、バーやスナックなどの業界団体も参加する全国生活衛生同業組合中央会の担当者はこう憤る。

「やり方があまりに乱暴です。建物内禁煙が実施されてお客さんが減り、店じまいに追い込まれる店舗はどうすればいいんですか。たたき台には何も示されていません。勝手に考えろと言われているように感じます。禁煙のためなら小さな店は潰れても構わないとは残酷すぎます」

 つまり各団体は、分煙か建物内禁煙かといった議論以前に、持論を押し付け、異論を聞こうとしない青年将校にも似た厚労省の「禁煙絶対史観」に、不快感を募らせているのである。

嫌煙家として知られる塩崎大臣

■結論ありきの姿勢

 事実、第2回のヒアリング後、11月18日の記者会見で塩崎恭久厚労相は、

「ヒアリングではたたき台について反対の声が相次いだが、結論はもう決まっているということか」

 との質問に対し、こう答えている。

「どの国でも一部そういうご意見(反対意見)があったと聞いていますが、受動喫煙の禁止を、きっちり罰則付きでやっているということであります」

 事実上、結論ありきを認めたのだ。

■例外は認めない

 そして、この「青年将校の刃」は「身内」にも向けられている。

 第1回のヒアリングに呼ばれた、民間病院を中心に組織される四病院団体協議会。言わずもがな、病院は厚労省から「監督」される立場にあり、同省との関係は密で、この協議会は厚労省の方針に必ずしも反対していない。身内なのだから当然である。

 しかし、たたき台では、病院には他の施設以上に厳しい規制が設けられていて、「敷地内全面禁煙」となっている。これに対し、同協議会は医療施設であることから建物内全面禁煙には理解を示しつつも、精神科病棟等の長期入院患者にとって病院は生活の場でもあることから、敷地内での喫煙所設置を認めてほしいと主張。それも、喫煙所と病棟の距離を取り、空気清浄器も設置するとまで「譲歩」したのだが、健康課長は、

「例外を認めてほしいと聞こえるが」

 と、上から目線で追及し、

「敷地内の喫煙所(設置)はできない」

 まさに原理主義者の本領を発揮し、異論をぶった切ったのである。

 四病院団体協議会の担当者はこう戸惑う。

「緩和ケアを受け、余生が短い患者さんもいます。そういった方々に、病院の外で吸ってくれと強制するのは難しい。ですから、病院全てでなくて構わないので、あくまで例外として、緩和ケア病棟などがあるところだけは敷地内全面禁煙の対象から外してほしいと要望しているんです。でも、ヒアリングの場では、『たたき台に反対なんですか?』と強く言われてしまいました。厚労省にそう言われると、何とも答えづらいところがあり……」

受動喫煙防止ロゴマーク

■「レベルの低い役所だから」

「ドラゴンクエスト」の音楽を手掛け、愛煙家として知られる作曲家のすぎやまこういち氏が嘆く。

「病院外になかなか出られない患者さんに、敷地内で煙草を吸うなとは非常に残酷な制度。人間性の欠片(かけら)も感じられない。きっと、機械のような人がそういう案を作ったのでしょうね」

 非喫煙者である作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が後を受ける。

「例外を認めないのは、役所ならではの発想ではなく、レベルの低い役所だからでしょう。もう少し余裕のある役所であれば、そんな全体主義的なことはしないはずです」

 先の記者が「禁煙派」の現状を総括する。

「厚労省では、ともに医師免許を持つ禁煙原理主義者の健康局長と健康課長の布陣がとられ、ここに経産省も『健康経営』なる理念を持ち出して加勢。禁煙派の医師たちは今がチャンスと色めき立っています」

 各団体が「畏怖」する健康課長に取材を申し込んだが回答はなく、本誌(「週刊新潮」)の質問は煙の如く吐き捨てられた。

 そんな原理主義者が跋扈する厚労省では、11月10日から、喫煙所で煙草を吸った場合、直接、職場に戻ることが許されず、一度、建物外に出る迂回路を通らなければならなくなっている。煙草のにおいを持ち込んではならないと……。ここまで来ると、完全に喫煙者の黴菌(ばいきん)扱いである。

 こうした血迷いぶりを、世間では「逆上」と呼ぶ。

特集「『建物の中は原則禁煙』!? 企業を強迫する厚労省『原理主義』はいかがなものか!」より

週刊新潮 2016年12月1日号掲載

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