宇多丸とLiLiCoが「自分を奮い立たせる『生涯ベスト映画』」を紹介〈宇多丸×LiLiCo 第3回〉

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LiLiCo「ワタシが自分をワンランクアップさせたいときに観る映画は『歓びを歌にのせて』です」

 映画評論に定評があるラッパーのライムスター宇多丸さんと映画コメンテーターのLiLiCoさんの対談が『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』(新潮社)の刊行を記念し行われた。今回はその第3回目。宇多丸さんはLiLiCoさんに映画紹介に関する悩みを打ち明けてきたが、ここに来て話は2人が何度も繰り返し見る「生涯ベスト映画」へと及んだ。

■自分を奮い立たせる「生涯ベスト映画」

宇多丸 もうひとつ相談したいことがあって、この「映画カウンセリング」のコーナーも、連載を続けているうちに質問と回答のパターンが出尽くしてきた感はあるんですよ。でもそれは、よく考えると自分の作っている楽曲のテーマやテクニックにも通じることで、キャリアを重ねるとパターン化してくるじゃないですか。それを撃ち破るというか、自分をネクストステージに持っていく、自分をバージョンアップさせるにはどうしたらいいのか。僕ももう40代後半なので、自力だと難しいので相談したいんですよ。

――「口癖を直したい」と「自分をランクアップさせたい」は、「マンネリを打破したい」という部分では共通していますね。

LiLiCo ワタシが自分をワンランクアップさせたいときに観る映画は『歓びを歌にのせて』です。

宇多丸 ほお。

LiLiCo ワタシたち芸能人って、いつも誰かに気を使って生きているので、他人に流されやすいんですよ。全部には共感できなくても、合わせなきゃいけないときもある。ワタシの場合は、日本という国にお邪魔させてもらっている立場でもあるので、日本の文化や日本人の気質に対して気を使っているところもあります。だけど、この『歓びを歌にのせて』を観ると、「人生は自分だけのものだよね」って思えるんです。当たり前のことだけどね。「ちゃんと自分らしく生きよう」と思っているときじゃないと、ランクアップなんてできないんですよ。

宇多丸 なるほど。小手先で何か習い事をしましたとか、そういうのはランクアップではないですよね。

LiLiCo「壁にぶつかるということは前に進んでいる証拠なんですよ」

LiLiCo あ、だからってNHKで下ネタは言いませんよ(笑)。LiLiCo そうです。心の中で何かが吹っ切れたときこそ、ランクアップできると思うんです。『歓びを歌にのせて』を初めて観てからもう10年くらい経ちますけど、いまだに繰り返し繰り返し観ています。そのたびに、違う場面で「ズキッ」とするわけですよ。年齢によって、あるいは結婚しているかどうかなどの生活の状況によって、受け取め方が異なる。とくに作中で「ガブリエラの歌」っていうのがあるんですけど、ワタシあの歌詞が大好きです。スウェーデン語からいったん英語に翻訳されて、それから日本語に翻訳されているんですけど、非常にうまい翻訳をしています。戸田奈津子さんもほめてましたよ。『歓びを歌にのせて』を観た翌日は、ちょっと違う自分でいられます。

宇多丸 自分は自分でしかないし、自分の中にあるものを出すしかないんだ、ってことなんですね。

LiLiCo ワタシね、NHKに出演するときは「ちゃんとしたLiLiCoでいよう」とか気を使っていたんですよ。でも最近やめたの。「だってワタシを呼んだんでしょ?」って。

宇多丸 おぉー!

宇多丸 (笑)。

LiLiCo TPOはわきまえながら。

宇多丸 求められて出演するわけですもんね。

LiLiCo そう。決められた枠組みのなかでのびのびと自由にやればいいし、もしかしたらその枠組みを壊して欲しくてワタシを呼んだのかもしれない。自分に何が求められているかわからないときは、「どういう立場でやればいいですか?」って素直に聞けばいいんです。

宇多丸 TPOでいえば、僕は場の空気を読み過ぎちゃうところはあります、すごく。

LiLiCo でも言っていいんですよ。ちゃんとした人なら、わかってくれます。それで関係が悪くなるようなら、その人たちと仕事をする必要がないんですよ。

宇多丸 まぁ、ねぇ。そうかー。

LiLiCo 人としゃべることは世の中でいちばん大事なことです。自分でピンときていないことは「ワタシ、これわかんないな」って言えば、案外周りもそう思っていて、そうすると何かが吹っ切れて、いままでよりいいものが生まれてきますよ。ワタシはこの「どうしたらいいかわからない!」って状況が好きなの。

宇多丸 え、それはどうして?

LiLiCo 壁にぶつかるということは前に進んでいる証拠なんですよ。

宇多丸 おお、それはポジティブな……。

LiLiCo だから壁を乗り越えたときが、自分のランクアップじゃないのかなぁ。

――マンネリな状況を打破するには、自分の中の生涯ベスト映画を観て、自分を奮い立たせるのがいいわけですね。LiLiCoさんの場合は『歓びを歌にのせて』。

宇多丸 そうか。僕にとっての『ヤング・ゼネレーション』が、つねに立ち返って自分を奮い立たせる1本であるようにね。

対談まとめ・構成:加山竜司
撮影=坪田充晃(新潮社 写真部)

デイリー新潮編集部

2016年12月6日掲載

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