「JR九州」大躍進の秘密は、乗客をワクワクさせる「物語力」にあった!

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(上)1泊2日25万円の超豪華寝台列車なのに予約は満員の「ななつ星」。 (下)車両の壁、天井に木材がふんだんにあしらわれている 写真提供:Web日本鉄道旅行地図帳 BLOG 悠悠自鉄

 九州旅客鉄道(JR九州)が10月25日、東京証券取引所第1部に上場した。上場初日の取引は、売出し価格を19%上回る3100円の初値、まずまずの結果だったといっていいだろう。JRグループで4社目の上場となった同社の上場は、上場済みの東海旅客鉄道(JR東海)、東日本旅客鉄道(JR東日本)や西日本旅客鉄道(JR西日本)の場合とは異なる。その3社に比べると、圧倒的に不利な企業環境で発足したという経緯がある。3島3社(北海道、四国、九州)は、旧国鉄の赤字路線を多く抱えて発足し、鉄道事業のみでは赤字経営から脱することができなかった。

■本業の切り札、「D&S列車」

 JR東海の場合、「ドル箱」新幹線や、大都市を結ぶ在来線を収益源に鉄道事業で売上高の7割を稼いでいる。JR東日本もその比率は6割だ。一方、JR九州は当初から鉄道事業以外での収益増大を目標に掲げてきた。鉄道以外の事業の拡大に力を注いできたのだ。会社発足時、売上高に占める鉄道以外の事業は2割弱しかなかったが、去年度には約6割を占めるまでに成長した。日本と韓国を結ぶ高速船「ビートル」の就航に着手し、東京や上海にまで進出して、和食や卵かけご飯・卵丼を提供する「赤坂うまや」、新宿駅近くに位置するホテル「ブラッサム新宿」など、外食宿泊事業への進出に果敢に乗り出す一方、本業の柱としてあらたに手がけられたのが観光列車の新設・運行だった。この路線は、その後、次々と生み出していった「D&S(デザイン&ストーリー)列車」へと結びついていく。

■5分の電車移動でも旅

 その鍵になったのが、デザイナー水戸岡鋭治氏の発想。たとえば、水戸岡氏は自らの基本的な考え方を、自らの著書『電車をデザインする仕事』でこのように語っている。

「私は新幹線やクルーズトレインによる長い旅にかぎらず、乗車時間がたとえ1分でも鉄道による移動はすべて『旅』だと思っています。子どもにとってはわずか5分の電車移動でも旅ですし、ビジネスパーソンの方たちが使う通勤電車に乗ることもひとつの旅だと思っています。つまり、鉄道の移動を『「ひとつの旅』ととらえれば、五感で味わうすべてを満足させなければならない」

 ちょっとした鉄道の移動で、いまだ経験したことのない雰囲気を味わえれば、それを追体験するために、お客さんはまたその列車を利用してくれる。だから、デザインは車両に乗った人が感じ取ることを豊かにしなければならないというのだ。ほんの数分の移動でも、乗客をワクワクさせ、自分が主人公だと実感できるような空間を作り出さなければいけないというのだ。

■通勤電車に本革の座面

 この「物語力」の発想から、豪華寝台列車なのに予約でいつも満員の「ななつ星 in 九州」や「或る列車」、「ゆふいんの森」などの「D&S(デザイン&ストーリー)列車」が生み出されただけではない。観光列車の機能を通勤電車に持ち込み、「817系コミュータートレイン」などには、新幹線と同等レベルの上質なプライウッド(積層合板)をベースに本革の座面を採用した。ふつう、傷つけられたりしないかと心配してしまうが、そのような憂慮は無用。むしろ、

「公共の場であるからこそ美しいデザインや良質の素材で車両をつくり、手間暇をかけてメンテナンスをすることによって利用する人たちに大切に使っていただきたいと考えたからです」

 空間が美しいと乗客に実感してもらえれば、車内にイタズラをするような人はいなくなるというのが、水戸岡氏の信念なのである。

デイリー新潮編集部

2016年11月1日掲載

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