「トランプ・ショック」とどう向き合うか 百田尚樹氏、憂国の警鐘

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第45代アメリカ次期大統領 ドナルド・トランプ氏

■トランプ・ショック

 ドナルド・トランプ大統領が誕生したことで、各所で「トランプ・ショック」が語られているが、日本にとっての大きな問題の一つは、安全保障政策がどうなるか、という点だろう。

 過去の大統領とはかなり路線の異なる「日米安保観」を語ってきたトランプ大統領の誕生が、日本人に突き付けてくる問題とは何か。私たちは何を想定すべきなのか。

 作家の百田尚樹氏は、トランプ氏が共和党の大統領候補となった時点で、この問題について「週刊新潮」に寄稿している。これからの日本人が考えるべき視点が提示されたこの原稿から、一部を抜粋、引用してみよう。

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■「米軍引き揚げ」は現実化するか

 アメリカ大統領選でドナルド・トランプ氏が共和党の候補になったというニュースは、日本のリベラル層と保守層の両方に衝撃を与えました。というのは、トランプ氏が公約の一つとして掲げている中に、「在日米軍の駐留費用を日本が全額負担しなければ、米軍を引き揚げる」というものがあるからです。私はそのニュースを見て、これは拙著『カエルの楽園』で書かれたストーリーが現実の世界で起こりつつあると思ってゾッとしました。

『カエルの楽園』はカエルが主人公のファンタジー小説です。生まれ故郷をダルマガエルに追われた2匹のアマガエルが、平和な楽園「ナパージュ」という国に辿りつくところから物語が始まります。ナパージュには「三戒」という奇妙な戒律がありました。それは「カエルを信じろ」、「カエルと争うな」、「争うための力を持つな」というものです。そこに棲むツチガエルたちは、「この国の平和は三戒によって守られている」と信じていました。「三戒」があることで、南の沼に棲む凶暴なウシガエルもナパージュにやってこないというのです。

 しかし、実際はナパージュの山の頂に棲むスチームボートという巨大なワシが睨みを利かせていたのです。

百田尚樹氏

 それでも最近、じわじわとナパージュに迫ってくるウシガエルに対して何らかの対策を考えなければならないと、元老たちはスチームボートとある協定を結ぼうとします。それはウシガエルたちが侵略してきたら、スチームボートと一緒になって国を守るというものです。

 ところがナパージュで最も発信力のあるデイブレイクというカエルは、「これはナパージュがスチームボートと組んで、恐ろしい戦争をするためのものだ」とツチガエルたちに訴えます。それで多くのカエルたちは、この協定を破棄させようと元老会議を取り囲みます。そういう混乱を見ていたスチームボートは、うんざりしたのか、「お前たちがそう決めたなら、しかたがない」と言って、とうとう山の頂から去っていきました。

 物語はそこからどんどん恐ろしい展開になっていきます。まだお読みになっていない方のために詳しく申し上げるわけにはいきませんが、読み終えた人からは「戦慄した」とか「震えが止まらなかった」という感想をいただきます。そして、実は一番多い感想が「この本は予言の書ではないか」というものです。

 同書は、今年の2月に刊行されましたが、もともと昨年の秋からメールマガジンで連載していたものです。ところが連載中に、現実社会がどんどん物語に近付いてくるのを感じていました。

■駐留米軍が撤退したら

 もし彼が大統領になれば、実際に「駐留米軍の撤退」を日本に突きつけてくる可能性が高いと思われます。

 これは『カエルの楽園』そのままです。本ではスチームボートが去った後のナパージュに、ウシガエルがどんどん侵略を始めます。ナパージュには彼らに対抗できるだけの強い三兄弟がいたのですが、彼らは「三戒」があるために満足に戦うことが出来ません。そのために「三戒」を破棄しようとある元老が言い出します。これに対して前述のデイブレイクは国中の人気者を動員して、「三戒」の素晴らしさを彼らに語らせ、多くのカエルたちを扇動しようとします。

 実はこれも現実が物語をなぞっています。今年の3月から某新聞社が著名な作家や文化人を次々に紙面に登場させて、「憲法9条は素晴らしい」と語らせています。その新聞社は私の本を読んで、企画のヒントにしたのかなと思ったくらいです。

■トランプは「平和ボケ」を目覚めさせるのか

 こんなわけで同書が「予言の書」と言われ始めているのですが、作者からすれば、とんでもないことです。私が『カエルの楽園』を書いたのは、「こういう結末にしてはいけない!」という思いからです。どうすればこうならないかを皆で考えてもらおうという気持ちで執筆したのです。しかし、現実は「あってはならない」方向へ進みつつあります。

 ただ、別の考え方もできます。それはトランプ氏が「駐留米軍の撤退」を突きつけてくれば、その時、長年の平和ボケだった日本人が目覚めるかもしれないというものです。

 日本では戦後70年、「国防」が大きなテーマとなったことは一度もありませんでした。かつて大ベストセラーとなった『日本人とユダヤ人』(イザヤ・ベンダサン=山本七平著)の中に、「日本人は水と安全はただだと思っている」という言葉がありました。これは耳に痛いものですが、鋭い指摘です。そう、日本人は国の安全は普通にあるものだと思っていたのです。それに護憲派の人たちは「日本が平和でいられたのは、憲法9条があるからだ」と何十年も唱え続けてきました。新聞でも、テレビでも、義務教育でも、その主張は繰り返し続けられてきました。結果、多くの日本人がそう信じ込まされました。

 しかし、現実はナパージュを守ってきたのがスチームボートであるように、日本を守ってきたのは駐留米軍だったのです。マスコミの多くはそのことを言いませんが、それでもかなりの数の日本人がうすうすその事実には気付いています。つまり、気付いていながら、知らぬふりを決め込んできたのです。でも、もし米軍が「金を払わなければ、撤退する」と言い出せば、もう知らないふりはできません。

 政府も国民も、「安全保障」と「国防」に正面から向き合わなければならないのです。もしそうなれば、私はこれは150年ぶりの黒船だなと思います。

 150年前まで、日本は200年もの間、鎖国状態が続いていました。その間、世界はとんでもない事態になっていました。西洋列強がアフリカ、アジア、南アメリカの国々を次々に植民地にして、収奪をほしいままにし、有色人種を奴隷化していきました。そんな中にあって、日本はただ自分の国が平和ならそれでいいと、「鎖国」という制度を打ち立てて、世界の混沌からは目を背けてきました。

 ところがアメリカの蒸気船がやってきて武力をちらつかせ、開国を迫ったことで、日本中が大混乱に陥ったのです。「ジャングルの法律」と言われる弱肉強食の世界に引きずり出されることで、「国防」というものを真剣に考えなければならなくなったのです。

 明治の新政府がまず掲げたのは「富国強兵」でした。今日、「富国強兵政策」を非難するエセ文化人などがいますが、笑止と言わざるをえません。もしその政策をとらなければ、日本は欧米列強に食い物にされていたでしょう。少なくとも日露戦争ではロシアに敗れて、支配下に置かれたのは間違いありません。

■その時、マスコミ、野党は……

 話が少し脱線しましたが、もしトランプ氏の公約通りの要求が行なわれれば、これはかつての黒船の時と同じく、日本人に「国防」の問題を突きつけることになると思います。

 米軍が日本から去れば、中国は間違いなく尖閣を奪いに来ます。これは過去40年の中国のやり方を見れば明らかです。彼らは米軍の支配力が消えた途端に地域の土地や島を奪います。西沙諸島も南沙諸島もそうやって奪ってきました。

『カエルの楽園』では、スチームボートが去ったと聞くと、デイブレイクを始め元老の多くが快哉を叫びます。そして彼らの意見に扇動された多くのカエルたちも口々によかったと言います。実際にはかなりの数のカエルたちが不安に思うのですが、それを口にするとデイブレイクに睨まれ、はっきりと口にできるカエルはほとんどいませんでした。そして物語は悲劇に向かって進むのですが、ここではそこまでの話はしません。

 私はトランプ氏が大統領になって実際に公約を突きつけてきた時、はたして日本の政治家、ジャーナリスト、文化人たちは、どういう意見を言うだろうかと注目しています。

 私の想像では、共産党と社民党は「米軍が出て行ってくれるのは大いに結構。日本は1円の金も払う必要はなし」と言うような気がします。それは長年の共産党の主張でもあるからです。でもこれを言うことで、党の支援者以外の人からは永久に支持を失うでしょう。彼らもそれがわかっていながら、ここで方向転換すれば元からの支持層も失ってしまうので、突っ走ることになるでしょう。彼らはもともと日本のことや国民のことなど何も考えていなくて、一番大事なのはイデオロギーなのですから。

 ただ、民進党がどう言うかはちょっとわかりません。彼らの中には、現実的な考え方が多少はできる人もいるでしょうし、そうした人は在日米軍の撤退によって東アジアの勢力均衡が一気に崩れてしまうということはわかっているはずです。だからといって、政府に「金を使ってでも米軍の駐留をお願いしろ」とはなかなか言えません。それを言えば、「中国の脅威」と「日本の安全は米軍のお蔭である」ということを認めることになるからです。これはそれまでの民進党の意見とは相当に食い違います。その矛盾を有権者に指摘されるのはかなり痛いところです。

 では彼らはどうするか。これは賭けてもいいですが、彼らは自分たちの意見は何一つ言いません。ただ、与党の意見に対して、その欠点を見つけて、それを指摘することでしょう。

 たとえば、政府が「お金を払う」と言えば、「そんな弱腰でいいのか」とか「アメリカ人を傭兵代わりにするのか」とか言い出すでしょう。あるいは「そんな金があるなら、もっと使うべきものがあるだろう」という的外れな意見も出るでしょう。そして「アメリカは横暴だ」というアメリカ批判も出るでしょう。要するにとにかく何でも反対するわけです。しかし「こうすればいい」という建設的な意見は絶対に出しません。

 おそらくサヨク系の新聞や文化人たちの意見もおおむねそうなるでしょう。彼らは政府が出す案に対して、重箱の隅をつつくような意見ばかりをしたり顔で語るでしょうが、「じゃあ、どうすればいいのか?」と問われれば、「難しい問題だけに簡単に結論を出せるものではない」というようないつものセリフで逃げることでしょう。今テレビに出ている進歩的文化人たちは必ずそう言います。これは私の「予言」です。

■日本人はカエルなみか

 ここまで書けば、「じゃあ、お前はどうなんだ」と問われそうですね。

 私は米軍にお金を支払うしかないと考えています。実際には今も多額のお金を払っているので、更にお金を要求されるのはむかつく話ですが、これは長年にわたって「安全保障」と「国防」を米軍任せにしてきたことによるツケがきた、と覚悟するしかありません。

 実は日本の米軍基地はアメリカの国防上重要なもので、また中東に展開する上でも最重要な基地なのですが、おそらくトランプ氏はそこをよくわかっていないのでしょう。でも、もしかしたらそれを把握してもなお、日本に無茶苦茶な要求をしてくるかもしれません。こうなれば、日本とアメリカの力関係です。

 ただ、トランプ氏は「日本の核武装も容認する」と言っています。これまた驚くべき発言です。多くの人が誤解していることですが、核というのは実は報復兵器です。自国が大国に蹂躙されたとき、報復として撃ち込むものなのです。北朝鮮が国家財政が傾くほどの金を懸けて核開発をしたのは、大国に手出しをさせないためです。北朝鮮がアメリカや中国やロシアとまともに戦えば、勝ち目はまったくありません。しかし、その時には最後っ屁として核ミサイルを撃ち込むぞ、という脅しは抑止力としては非常に有効です。

 つまりはっきり言えば、トランプ氏は日本も核を持つことで、中国の脅威に備えればいいと言っているのです。そして、それをアメリカは容認すると。

 さあ、はたして日本のツチガエルたちはこれに対してどういう意見を述べるのでしょうか。日本人の核に対するアレルギーは世界一です。大多数の国民は「核」は最大の悪であると信じ込んでいます。野党議員だけでなく、自民党議員の中にもそう思い込んでいる人が多数います。しかしこれは実は論理的に考えればおかしなことです。「核」は、それ自体はナイフやピストルと同じようにただの道具です。問題は如何なる形で使用するかということです。自衛や戦争抑止のための核さえも認めないというのは、思考停止以外の何ものでもありません。

『カエルの楽園』では、スチームボートが去ったあとのツチガエルたちは完全に思考停止に陥り、最終的に悲劇的な結末を迎えますが、我々日本人はカエルではないと信じたいです。

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 すでに翁長沖縄県知事は、トランプ大統領誕生によって、沖縄の基地問題が「前進」することに期待を示している。翁長知事からすれば、駐留米軍の撤退こそが「前進」なのかもしれない。しかし、果たしてその「前進」の先に何があるのだろうか。

 百田氏は、仮にトランプ大統領が実行しなくても、将来的に米軍が日本から撤退するという可能性はある、としたうえで、「その日が来てから慌てふためくようでは、日本人はカエルなみの頭と世界に笑われてもしかたがないでしょう」と語っている。

デイリー新潮編集部