ハンガリーの混乱に見る、EU「本音と建て前」の限界

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 ハンガリーには「逃げるは恥だが役に立つ」という諺がある一方、「冒険する者は得る」という相反するような諺も存在する。

EU諸国の本音を代弁か(イメージ)

 ハンガリーのオルバン首相は2日、後者の諺に従うようにEUの難民分担政策に真っ向から異を唱え、国民投票を実施した。

「有効投票率が50%に満たなかったため国民投票は不成立。“反難民”を標榜するオルバン首相の意図は挫かれ、欧州でのポピュリズム拡大は阻止された、と安堵する声がある一方、有効投票率43・9%のうち98%は“難民受け入れ反対”。この強烈な拒否反応に、EUの人道主義的政策は限界が近いのではと危惧する声も出ています」(国際部記者)

 昨年、欧州各国に提出された難民認定の申請数は過去最高の130万人。110万人はドイツが受け入れたが、ギリシャ、イタリアに留められた16万人は各国で分担して受け入れるようEUが要請。これに反発したオルバンが、各国議会の承認もなしに難民を押しつけるのか、と叩きつけた挑戦状が国民投票だったのだ。

 ドイツ在住の作家川口マーン惠美氏は言う。

「ハンガリーは人口1000万人ほどの国ですが、昨年は1000人当たり17・7人と人口比で欧州最多の難民を受け入れているんです。ドイツは5・4人ですからいかに多いか。声高に“反難民”を叫ぶオルバン首相のためハンガリーが目立っていますが、外国人が増えることで不安が増しているのはドイツも同じです」

 在英国際ジャーナリストの木村正人氏も言う。

「建て前上、ハンガリーを批判する声はEU各国内に強いですが、では自分自身はどうなのか。昨年決まった16万人の難民の受け入れが実行されたのは9月末時点でまだたった4%です」

 ほとんどの難民は足止めを食ったままだ。

「この数字に、欧州各国の本音が透けて見えると言ってよいかもしれません」(同)

 冒頭の諺二つを振り返れば――どうやらハンガリー以外のEU各国は、黙って前者を実践しているらしい。

週刊新潮 2016年10月20日号掲載

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