安倍官邸の“宮内庁封じ込め”人事 煙たい長官を交代

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 吹き始めた秋風に晒される安倍官邸の面々が噛みしめているのは、過ぎし夏への「思い」と「重い」課題に違いない。天皇陛下のいわゆる生前退位問題に揺れた2016年の夏。極めて重大かつ繊細な事柄ゆえに、政府はその対処に苦慮しているが、これ以上の「重石」は御免被(こうむ)りたいと言わんばかりに、宮内庁相手にある策を仕掛けていた。

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知らぬ存ぜぬの一点張り

「知らない」、「知らない」、「知らない」……。

 9月23日、番記者の「朝駆け取材」を受けた菅義偉官房長官は、このように朴念仁を貫いた。

「その日の早朝、NHKが、生前退位の有識者会議メンバーに経団連の今井敬(たかし)名誉会長らが起用されるとのニュースを流したんです」

 と、大手メディアの官邸担当記者が振り返る。

「各社、この報道の裏を取ろうと菅さんに質問したんですが、知らぬ存ぜぬの一点張り。結局、当日の午前中に有識者会議のメンバーは正式発表されましたが、政府がいかに生前退位問題にピリピリしているかを物語っています」

 夏の真っ盛りだった8月8日に行われた天皇陛下による生前退位のご意向表明。これにより、政府は否応なく対応を迫られた形だが、

「安倍官邸としては、多くの国民が支持する生前退位は進めざるを得ない一方、『女帝・女系問題』に発展することだけは避けたい。そこで、これ以上大事(おおごと)にならないように、人事によって先手を打ちました」(同)

■誕生日当日のニュース

人事によって先手を打った

 それは実に巧妙で、

「まず、宮内庁の風岡典之長官の首を切った」

 と、宮内庁関係者が解説する。

「彼は『(生前退位について)できるだけ優先的に対応していただきたい』と述べたり、五輪招致に皇族が政治利用されたのではないかと話題になった際、『天皇皇后両陛下も案じられているのではないか』と、官邸を刺激する発言を繰り返してきました。つまり、風岡さんは政権に盾突く煙たい存在だった。そんな彼を、官邸は長官の座から引きずりおろしたわけです」

 しかも、タイミングがいかにも露骨で、

「風岡長官交代のニュースは、9月15日に流れました(退職は同月26日付)。この日は、彼の70歳の誕生日。宮内庁長官は70歳である1年の間に退くことが慣例となっていますが、年度末までは続投が既定路線でした。しかし70歳を迎えたまさに当日、官邸は『待ってました』とばかりに、彼の人事を断行したんです」(同)

 この風岡人事については、ある宮内庁幹部OBが、

「生前退位の議論を始めてもらうこととのバーターとしては致し方ない」

 と言うように、「痛み分け」に見えなくもないが、

「さらに官邸は、警察庁の沖田芳樹警備局長を警視総監に据えた。彼は侍従時代、両陛下、とりわけ皇后陛下からの信頼が篤(あつ)く、本来、天皇陛下に寄り添うべきところ、被災地で皇后陛下の傍(かたわら)にいたことがそれを証明しています。この沖田さんを警視総監に『祭り上げ』、同時に官邸との関係が深く、やはり警察畑で内閣危機管理監だった西村泰彦さんが宮内庁次長に送り込まれました」(前出関係者)

 いずれ西村氏が長官に昇進すれば、

「同じ警察官僚に宮内庁のツートップを占めさせることはできないので、沖田さんが将来的に次長に就任する目は消えた。要は、両陛下の『側近』を宮内庁から隔離したんです」(同)

 十重二十重に敷かれた「宮内庁封じ込め体制」。こうして官邸の思いを知らされた同庁は今、重い空気に包まれていて……。「見えない明日」にヤキモキ?

週刊新潮 2016年10月6日号掲載

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