熱中症が引き起こす「夏の死」のリスク 心筋梗塞、敗血症、DIC

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 炎天下で足元がふらつき、意識がぼーっとする。熱中症かと思いきや、実は脳梗塞だった――猛暑日が続く中、こうしたケースは多い。さらに、脱水症状によって引き起こされる“熱中症由来の脳梗塞”にも注意が必要だと、専門医は言う。

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 熱中症が誘発する怖い病は他にもある。

「高血圧、動脈硬化、糖尿病などの基礎疾患を持っている人のリスクは、脳梗塞だけではない。血栓が肺で詰まれば、肺塞栓症、いわゆるエコノミークラス症候群を起こし、心臓で詰まれば、心筋梗塞を引き起こす」(医学博士で米山医院院長の米山公啓氏)

 熱中症に起因する「死に至る病」は他にもある。国立病院機構熊本医療センター救命救急センターの櫻井聖大(としひろ)医長はこう警鐘を鳴らす。

「人間は体温が上がりすぎると、各臓器に血流の低下と高温に起因する循環障害が起こり始める。この段階からさらに体温が抑えられず、どんどん上昇が続くと、熱による直接的な臓器障害が起こります。肝機能障害や腎機能障害、脳の中枢神経や消化器官にまで壊死が生じ、機能障害が進む。むろんそのまま放置すると、多臓器不全で命を落とす。この症状が体中で一番細菌が多く生息する腸に及ぶと、腸管粘膜損傷で、体全体に細菌がばら撒かれることになる。極めて致死率が高い敗血症の発症です」

 その後、重症化した熱中症の最果てにはいかなる終末が待ちうけるのか。

「全身で起こる炎症に血液の凝固機能が働き、腸内を皮切りに、全身のありとあらゆる細かい微小血管内に血の塊、つまり血栓が大量にできます。やがて血液の凝固成分が枯渇し、一転して今度は炎症を起こしても血が固められなくなる。同じ人間の体内で大量の血栓の発生と大量の出血が起こるのです。この段階の熱中症では鼻や肛門などの粘膜を中心に全身から大量出血し、死に至る。この病態を播種性血管内凝固症候群(DIC)と呼びます。DICを起こした患者では、気管挿管したチューブから熱せられた血液がブクブク泡を立てて噴き出してくるなど、まさに凄絶としか言いようのない最期を迎えることになる」(同)

 熱中症が実際にDICにまで至るケースはどれくらいあるのか。昭和大学病院救命救急センター長の三宅康史教授の話を聞こう。

「熱中症にもI度からIII度までの重症度があります。意識障害等がある最も重いIIIで搬送されてきた方の1割がDICに罹っています」

■“夏の死のリスク”予防法

 日本救急医学会に加盟する103の病院施設から報告された熱中症患者数は年間約2000人いる。そのうちIII度の重症者は1100人ほどだから、DICの病態に陥った患者は100人強となる。

「このうち3分の2の方が命を落とされます」(同)

 というから、六十数人が死亡することになる。いかに致死率が高いか理解できよう。熱中症にならない、なっても軽度段階で抑えることが重要なわけだ。予防策をいくつかお伝えしよう。

「なにより水分補給をこまめに行うことです。この季節は一日に1~5リットルは水を飲みましょう。一日中、家にいる女性であれば、1リットル分を2時間おきにコップ1杯ずつ。暑い日にゴルフに出かける人は、3リットル分を1時間おきに飲んでください」

 と、脳神経外科医の工藤千秋氏。この際、水だけではなく、

「塩分も合わせて摂取してほしい。ナトリウムもきちんと摂らないと、脱水が改善せず、低血圧になりすぎて血流が悪くなるからです。スポーツドリンクのようにナトリウムも含まれている飲料がベストと言えます」(日本脳卒中協会専務理事で、中山クリニック院長の中山博文氏)

 室内にいても要注意だ。

「エアコンが嫌いで真夏でもかけない人がいますが、熱中症の要注意ラインは30度。適切に活用して室温をこれ以下に保つことが大切です。就寝時にもタイマーを設定しましょう。実は熱中症による死亡者の9割が屋内にいた人なのです」(工藤氏)

 以上の点に留意し、日頃から予防に努めるのが、“夏の死のリスク”を未然に防ぐ道につながるのである。

「特集 敗血症も全身血栓もある『熱中症』から死に至る病」より

週刊新潮 2016年8月4日号掲載

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