外国人監督と組んだスタジオジブリはどこへ行くのか 鈴木敏夫氏がその狙いを語る

映画2016年7月24日掲載

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■我々はどこへ行くのか

 7日から六本木ヒルズ展望台東京シティビューで開かれている「ジブリの大博覧会~ナウシカから最新作『レッドタートル』まで~」。ジブリのこれまでの全作品の資料が集められ、ファン垂涎の展示となっているが、訪れたファンは博覧会の最初の部屋に飾られている一枚の絵画に驚くことになる。その絵に込められた意味をジブリの鈴木敏夫プロデューサーが解説する。

 博覧会のエントランスには「すべては、この1枚から始まった。」とコピーが入った「風の谷のナウシカ」のポスターがあり、そこからスタジオジブリ全作品のポスターがびっしり貼られた通路になる。このわずか数メートルを抜けていくだけでいささかテンションがあがってくる。

スタジオジブリ全作品のポスターがびっしり貼られた通路

 ところが最初の部屋にバンッと飾られているのは、なぜかフランスの画家ポール・ゴーギャンの大作だ。晩年にタヒチで描いた「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」。

 19世紀末を代表する絵画の1枚で、ジブリとは何の関係もなさそうだけれど、タイトルが書かれた小さなプレートを眺めていると、〈この博覧会は過去を振り返る大回顧展ではあるが、しかしなお我々は未来を目指すのだ〉というジブリからのメッセージなのだろうな、と察しはつく。

 だが、そんな意味合いだけではなかった。周到に、最新作「レッドタートル ある島の物語」への入口となっていたのだ。

■「長編映画を作ってみないか」

最新作「レッドタートル」のポスター

 フランスで制作された初のジブリ作品「レッドタートル」の監督はマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット。これまでは短編アニメーションしか作ったことがなかった。ジブリの鈴木プロデューサーが、アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞したマイケルの前作「Father and Daughter」(たった8分である女性の一生を描き上げたこの名作はYouTubeで観ることができる)に感動し、「長編映画を作ってみないか」と呼びかけたのが始まりだった。

 鈴木さんの著書『ジブリの仲間たち』(新潮新書)によると、「どういう映画を作るのか? マイケルの提案は、無人島に流れ着いたひとりの男の物語だった。世界にゴマンとある、いわゆるロビンソン・クルーソーものだが、マイケルが作れば格別のモノが出来そうだと僕は確信した。夢が膨らんだ」。

 マイケルは東京のアパートに住み、毎日のように高畑勲監督に教えを仰ぎながら、シナリオと絵コンテをしあげた。この絵コンテは「大博覧会」でもたっぷり展示されている。

■カンヌでの栄冠

鈴木敏夫プロデューサー

 鈴木プロデューサーがマイケルに声をかけてから10年、実制作に足掛け3年かけて、マイケルの長編処女作は完成。カンヌ映画祭「ある視点」部門にノミネートされ、南仏に招かれた鈴木さんはこんなことを思う。

「監督のマイケルはオランダで生まれ、本人に言わせると森の中で育ち、スイスで勉強して、スペインでアニメーターになったらしい。その後、ディズニーの仕事をするためにアメリカの西海岸へも出掛けたし、その後はイギリスに居を構え、短編作りに精を出し、その間を縫って日本にもやって来た。そして今回はフランスにいる。池澤夏樹さんも北海道の帯広で生まれ、上京したあと、一転ギリシャに渡って生活していた。その後は沖縄で10年、パリの近郊フォンテーヌブローで5年暮らし、現在は札幌在住だ。そんなふうに考えていくと、思い出す先達がいる。ポール・ゴーギャンだ。彼はフランスで生まれて、家族とペルーへ亡命した。水夫や株式仲買人になって世界を巡ったのち、パリで画家を目指した。やがてブルターニュで前近代の面白さに取り憑かれ、タヒチに旅立つ。2年後パリへ戻ってタヒチを題材にした絵を発表していくが、まるで評価されず、再びタヒチへ帰る。以後二度とヨーロッパの土を踏むことはなかった。

 この3人に共通するのは、いわゆる定住者ではないことだ。『男はつらいよ』の寅さんとは違う。寅さんには帰る故郷、柴又があるが、この3人にはそれがない。
(略)

 谷川俊太郎さんにも『レッドタートル ある島の物語』を見てもらい、一編の詩を書いて貰った。すばらしい作品だった。

 水平線を背に何ひとつ持たず
 荒れ狂う波に逆らって
 生まれたての赤ん坊のように
 男が海からあがってくる

 どこなのか ここは
 いつなのか いまは
 どこから来たのか
 どこへ行くのか いのちは?

 空と海の永遠に連なる
 暦では計れない時
 世界は言葉では答えない
 もうひとつのいのちで答える


 この詩を読んで思い出したゴーギャンの絵がある。『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』と題された、ゴーギャンがタヒチへ戻ってから最晩年に描いた大作だ。僕は迷うことなく、谷川さんの詩の一節を映画のコピーにさせて頂いた。

 どこから来たのか
 どこへ行くのか いのちは?」(『ジブリの仲間たち』より)

 そして「レッドタートル ある島の物語」は、カンヌ映画祭で「ある視点」部門特別賞を受賞した。アニメーションがこの賞を得るのは異例のこと。審査員たちは「映像と音のポエジーに溢れる、この映画自体が特別なものだ」と評した。日本では9月17日公開。

デイリー新潮編集部