子連れのツキノワグマに遭遇…54歳男性はどう闘ったか

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 十和田湖周辺で、人食いクマが4人の命を奪うという惨劇が起こったばかりだが、全国的にも例年より2カ月ほど早く、出没が相次ぐようになっている。神奈川県の丹沢湖近くの林道では、54歳の男性がクマに襲われたものの、命からがら撃退することに成功したという。なにか、秘訣でもあったのか。

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“クマに背中を見せてはいけない”という言葉を思い出し、果敢に立ち向かっていった(※イメージ)

 神奈川県山北町の山間地では、クマの目撃情報がこれまでに4件寄せられていた。遂に、54歳の男性が襲われたのは、6月24日のことである。

 その男性から聞き取りを行った、山北町役場の環境課の職員が証言する。

「横須賀市在住の会社員で、丹沢湖近くの玄倉(くろくら)林道にクルマを停め、徒歩で往復約6時間かかるユーシン渓谷を目指そうとしていました。ユーシン渓谷は、岩から溶け出した鉱物の影響で、川がエメラルドグリーンに映り、カメラ愛好家に人気のスポットです」

 だが、歩き出して30分足らずで、母と仔のツキノワグマに鉢合わせしたという。

「母グマは体長約1・2メートル、仔グマは0・4メートルくらい。ふと前を向いたとき、5メートルくらいの距離にいたものだから、男性は恐怖で全身から冷や汗が噴き出したそうです。母グマは仔グマを守ろうと徐々に近づいてきて、威嚇を始めた。そのとき、男性は“クマに背中を見せてはいけない”という言葉を思い出し、果敢に立ち向かっていった。カメラ用の三脚を母グマの顔面に振り下ろし、胴体にキックを食らわしたと言っていました」

 むろん、母グマの反撃に遭い、男性も右腕と左手の甲に全治1週間の傷を負った。

■ゆっくり後ずさり

出没注意

 なおも必死に抵抗すると、母グマは一旦、離れていく素振りを見せたという。

 環境課の職員が続ける。

「ですが、男性がホッとしたのも束の間、母グマは引き返してきた。男性は負傷した腕を庇いつつ、胴体を力いっぱい蹴り飛ばしたら、ようやく、クマの親子は山中に戻っていったみたいです」

 男性は身長165センチほどの中肉中背。にもかかわらず、なぜ、撃退できたのか。

「日本クマネットワーク」代表で、石川県立大学の大井徹教授(動物生態学)が解説する。

「クマに遭遇した場合、パニックにならず、ゆっくり後ずさりして距離を取っていくのが最善の方法です。でも、もしクマが攻撃してきたら、その男性のように、逃げないで立ち向かっていった方が命拾いをする可能性が高い。“敵は手強(てごわ)い”と感じさせれば、クマの方が去っていきます」

 死んだふりは、逆効果なのだとか。

「ワイド特集 雨中の決戦」より

週刊新潮 2016年7月7日号掲載