三菱東京UFJと日銀に生じる不協和音 国債資格の“円満返上”強調も

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三菱東京UFJ銀行本店

 またぞろ、“赤いスリーダイヤ”が世間を騒がせている。三菱自動車の燃費データ改ざんが問題になったばかりだが、今度は“御三家の1つ”三菱東京UFJ銀行だ。“特別資格”を返上して金融界のみならず、霞が関にも波紋を呼んでいるという。

 三菱東京UFJが返上を検討しているのは、“国債市場特別参加者”なる資格だ。この資格があると、国債の入札で財務省と意見交換できるメリットがある一方、国債発行予定額の4%以上の応札が義務付けられる。2004年に財務省が導入した制度で目下、メガバンク3行と証券会社19社が資格を持つ。今回、三菱東京UFJが資格を返上すれば国内初のケースになるが、

「我々としても、苦渋の決断なのです」

 こう語るのは、三菱東京UFJの中堅行員だ。

「これまで財務省や日銀の意向を汲んで国債を購入してきたが、マイナス金利政策下では国債を満期まで持ち続けると、逆に利子を払わなければならないリスクがあり、株主などの理解を得られ難い。一方、4%の応札義務を果たさないと“資格剥奪”というペナルティーを科せられ、企業イメージが著しく低下する恐れがある。そこで泣く泣く返上することにしました」

 今年3月末時点で、メガバンク3行の中で国債保有残高がもっとも多いのが約28・3兆円の三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)。みずほFGの約15・6兆円、三井住友FGの9・8兆円と比較すると突出している。国債の引き受け手が減れば、国の予算編成にも影響を及ぼしかねないが、財務省や日銀の反応は、

「5月下旬に財務省や金融庁、そして日銀に“返上”の相談をすると、“了承”していただけたと聞いています。グループ内の証券会社2社は引き続き資格を持ち続けますし、国債をまったく買わなくなるわけではありません」(同)

■社長の日銀批判

 三菱東京UFJの小山田隆頭取(60)も、6月10日の記者会見で、“返上”を示唆しつつもこう強調した。

「国債の安定消化と市場の流動性確保には貢献し続ける。国債保有量をどんどん減らすわけではない」

 三菱東京UFJは“円満返上”を強調するが、その言葉を鵜呑みにする市場関係者はそれほど多くはない。証券会社幹部によれば、

「日銀へ“反旗”を翻したと受け取られても仕方ありません。これまで三菱東京UFJは大規模金融緩和に積極的に協力してきたが、日銀は、銀行の収益を圧迫するマイナス金利政策を予告なく断行した。その意趣返しと見られてもおかしくないでしょう」

 両者の不協和音はこれ以前にも聞こえていた。実は、小山田頭取の“上司”である三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は、4月14日の講演会でマイナス金利政策を痛烈に批判していたのだ。

「残念ながら懸念を増大する方向に働いている。銀行の利ザヤは縮小し、基礎体力の低下をもたらす」

 メガバンクの首脳が、日銀の批判を公然と口にするのは極めて異例。さらに、三菱東京UFJは、日銀審議委員の選任にも不満を抱いていたという。経済誌デスクが言うには、

「政府と日銀は、4月下旬に三井住友銀行出身の石田浩二審議委員の後任に、マイナス金利政策を支持する新生銀行の政井貴子執行役員の起用を決めました。これでメガバンク出身者がゼロになった。石田さんの次は、三菱東京UFJ出身者が“内定”していたので怒るのも無理はありません」

 三菱東京UFJへ報復する術が見当たらない日銀。当分、不機嫌な日々が続きそうだ。

週刊新潮 2016年6月23日号掲載

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