伊勢原で遺体発見 「死刑囚の告白」を隠蔽しようとしていた警視庁

社会 週刊新潮 2016年5月5・12日ゴールデンウイーク特大号掲載

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2人の犠牲者

 闇から闇に葬られていた殺人事件の犠牲者は、2人いる(図1を参照)。最初の被害者は、今回、遺体が発見された、不動産業者の津川静夫さん(失踪時60歳)だ。1996年8月、彼は伊勢原市の自宅から忽然と姿を消したまま、行方が分からなくなっていた。かつて津川さんが競売により2309万円で落札した伊勢原駅前の土地が、再開発で10億円もの資産に高騰。彼に金を貸していた住吉会系組織の若頭がこの土地を奪おうと目論み、矢野に殺害を相談した。共謀の結果、矢野がこれを別の住吉会系の組長に依頼し、津川さんは、その配下の組員に絞殺されたのである。

 そしてもう一人は、90年代半ば、現役の国会議員が多くの国民から多額の金を騙し取り、その一部が永田町に流れた「オレンジ共済事件」で注目を集めた人物だった。事件に絡み、政界工作を行ったとされ、国会に証人喚問された“永田町の黒幕”、斎藤衛である。

 いずれのケースも、矢野の指示を受け、死体を遺棄したのは、彼が率いた「矢野睦会」の組員、結城実氏(仮名)だった。

 津川さんの遺体が発見されたことを受け、新聞、テレビは事件を大きく報じた。

〈矢野治死刑囚(67)が20年前に別の殺人事件に関与したと警視庁に告白したことを受け、警視庁と神奈川県警は19日、神奈川県伊勢原市の山中を捜索し、遺体を発見した〉(4月20日付朝日新聞朝刊)

〈19日、供述に基づき、同県伊勢原市の山中を捜索し、遺体を発見〉(同読売新聞朝刊)

〈捜索のきっかけは、(中略)矢野治死刑囚(67)が「不動産業の男性を20年前に殺害した」と告白する文書を警視庁に送ったこと〉(4月19日のテレ朝news)

 いずれの報道を見ても、矢野の告白を受けた警視庁が水面下で執念の捜査を続け、今般の遺体発掘にこぎ着けたと受けとめられる内容である。

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