「トランプ」が“世界最高のギャンブラー”と褒め称えた「山梨の不動産王」の正体

国際週刊新潮 2016年3月17日号掲載

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 米大統領選での躍進が続く不動産王ドナルド・トランプ氏(69)だが、かつて彼をカジノで追い込んだ日本人がいた。バカラ賭博のハイローラー(高額な掛け金を注ぎ込む客)として業界で知られた、山梨県の不動産業兼貸金業「柏木商事」の柏木昭男社長である。1990年に2度、トランプ氏が経営するカジノに招かれた柏木社長は、最初の勝負で約9億円の勝利を手にし、創業以来の損失をカジノに負わせる。しかし、その3カ月後の再訪時には約15億円の負け。数日後、「ウォールストリート・ジャーナル」にて、“世界で最も派手なギャンブラー”と紹介された。

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米大統領選での躍進が続く不動産王ドナルド・トランプ氏

 海千山千のトランプ氏を狼狽(うろた)えさせた柏木社長は1937年、富士吉田市の生まれ。地元では一代で財をなした立志伝中の人物として知られている。宮大工を父に持ち、中学卒業後は農業を手伝いながら富士山の強力(ごうりき)で身を立てていく。隣の河口湖町に移ると、60年頃には親類と不動産業、続けて貸金業も始め、69年に「柏木商事」を設立。自身は土地500坪、床面積200坪で時価50億円といわれる総ケヤキ造りの「柏木御殿」に住んでいた。

 が、大勝負から2年後の92年1月3日夜、その御殿の20畳ほどの台所で、社長は顔や首など約20カ所をメッタ刺しにされた状態で発見されたのだった。

 事件後、さまざまな説が浮かんでは消えた。曰く、トランプ氏が負け金返済を迫って手下を動かした、別のカジノの借金がらみで欧州のマフィアに狙われた、さらには息子の絡んだ金銭トラブル等々……。1カ月後、地元の暴力団組員が逮捕される。これで一気に解決かと思われたのだが、あろうことか「物証に乏しい」と処分保留で釈放されてしまい、事件は07年、未解決のまま時効を迎えた――。

■嫌がらせの立ち退き工作も

 そのバカラ社長の風評は、決して芳しくなかった。

「借主が担保に差し出した土地を手に入れるため、返済日にわざと姿をくらまして金を受け取らなかったりと、若い頃からやり方は容赦なかった」(地元住民)

 河口湖近辺の別荘開発で売り上げを伸ばし、東京に事務所を置いた85年頃からは、首都圏の物件の地上げが主たる仕事になっていく。が、荒っぽい手口で新聞を賑わせたこともあった。

「文京区内の500坪の土地を買収する際、長屋の中に1軒だけ立ち退き反対の商店があった。柏木社長は嫌がらせに隣室で毎晩徹夜麻雀をして脅かしたのです。それでも効かないと見るや、今度は商店の2階を取り壊し、挙げ句に出入り口を鉄の塀で塞いでしまいました」(当時取材した記者)

 たまらず裁判を起こした商店主は、88年に勝訴している。また87年には、

「神奈川県相模原市にある園児130名が在籍する私立幼稚園の土地・建物を競売で手に入れたのち、有無を言わせず強制執行に踏み切らせた。建物を壊して閉鎖に追い込んだのです」(同)

 まさにやくざ顔負け。極めつきは、

「あれだけのカネを動かしておきながら、納税額1000万円以上で公表されるはずの長者番付には亡くなるまで数年間、名前がありませんでした。節税云々のレベルを超えており、明らかに不自然でした」(同)

■7億円の軍資金

 かつて柏木商事で側近だった人物によれば、

「柏木社長がバカラを知ったのは80年代初め、韓国のカジノでした。オイチョカブと似ているので一気にのめり込んでしまったのです。亡くなるまでの10年間で100回以上、1カ月に1回のペースで海外のカジノに出かけていました。上客だから、賭け金以外の渡航費、宿泊代、食事代はすべてカジノ側が負担してくれたのです。社長はゲンを担ぐタイプで『ラッキーセブンだから』と、いつも7億円の軍資金を用意させ、自分のキャリーバッグや私のカバンに分けて部下に運ばせていました。負ける時はこの7億円が1、2日で消えてしまうことも度々ありました」

 別の同行者によれば、

「賭場では、バカラ台の両端に我々が座って『目をつける』。つまり勝負の細かいスコアをつけていきます。これを数日間、寝ずにやるわけです。勝てば機嫌よく帰れますが、負けると帰りのファーストクラスで社長は荒れる。客室乗務員を罵倒したり、機内の座席や机を蹴ったりと下品だった。我々は寝たふりをしてやり過ごしていました」

 地元の知人が言う。

「柏木さんは会社の人だけでなく、故郷の富士吉田の知り合いの商店主を『カネは貸すから賭けてみろ』なんて誘ってカジノに連れて行っていました。でも素人だから負ける。そうやってできた数百万円の借金の担保に差し出した土地を取り上げられた人もいたと聞きました。だから葬式の時には、彼を偲ぶというより御殿の内部を見たくて、みんな野次馬みたいに参列したのです。トイレは6畳の広さ、床の間には横山大観の絵。フスマの取っ手も金でできているし、驚きましたよ」

“功徳”とはまるで縁遠い旅立ちだったのである。

「特集 『アメリカ大統領選』余聞 『トランプ』に博打で15億円負けた『山梨の黒いバブル紳士』」より