古都「奈良」にやっと「外資高級ホテル」のワケ

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 志賀直哉は随筆「奈良」で、〈食ひものはうまい物のない所だ〉と書いた。そんな古都・奈良に、初の外資系高級ホテルが誕生する。

 2020年春に、米マリオット・インターナショナルが展開する最高級ブランド「JWマリオット」が、平城京跡にほど近い場所にお目見えするのだ。地上7階の建物には、スイートを含む150の客室とプールやレストランにバーも揃う。土地の所有者である奈良県と、今月末に譲渡契約を結ぶ予定と話すのは、事業を担う不動産開発大手の森トラストだ。

「県内には同様のホテルがないため、増加する外国人観光客、特に中長期滞在の需要を見込んでいます」

 東大寺や法隆寺をはじめ、国宝の数は全国3位。見どころには事欠かないが、外資系ホテルは全くなかった。それどころか観光庁が発表した速報値をみると、奈良県の宿泊者数は昨年約262万人と全国ワースト2位なのだ。厚労省の一昨年の調べでも客室数は全国最下位である。

「昔ながらの日本旅館が多く、海外から国賓が来ても京都や大阪に泊まってしまう。県としても、VIP対応が可能な4つ星以上のホテルを誘致しようと関係先に売り込んできましたが、外資系ホテルが一切ないため、“マーケットリサーチができず需要が読めない”と断わられ続けていました」

 と、県担当者は振り返る。県の調べでは、観光客の約8割が近畿圏からの日帰り組だという。

 確かに、“うまい物ナシ”と知れば帰りたくもなるだろう。だが、冒頭の随筆は、〈此所では菓子が比較的ましなのではないかと思ふ〉と続く。志賀と先々代の頃に親交があった寛政元年(1789)創業の老舗「御菓子司 岡崎松光堂」当主の話。

「日航ホテルが奈良に出来た時も、新たな観光客が増えたという良いお手本があります。今回のニュースは地元も歓迎していますよ」

 志賀は〈今の奈良は昔の都の一部分に過ぎないが、名画の残欠が美しいやうに美しい〉とも綴っている。

 やっぱり名画は腰を落ち着けて観てみたい。

週刊新潮 2016年3月17日号掲載

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