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科学誌「Nature」からの“物言い”も 「切らずに治す」の真実 〈がんになればすがりたくなる「先端医療・先進医療・民間療法」のワナ(3)〉

 セカンドオピニオン外来を中心とする「東京オンコロジークリニック」代表である大場大氏が、がん治療に潜む大小のワナを指摘する。これまで、医学的根拠に欠けた「先端医療」、いい加減な容量を投与する「エセ免疫療法」を行うクリニックの例を紹介してきたが、巷間持て囃される「先進医療」にもまた、注意が必要であるという。

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東京オンコロジークリニック代表・大場大氏

 では、「先進医療」に目を転じましょう。これは行政上で認められている用語で、保険診療との併用が可能とされていますが、費用は自己負担です。もっとも、現段階では「安全かつ有効」であることが十分に確立されていない、暫定的な治療のことを指します。たとえるなら、プロ入りが期待されている有望なアマチュア選手。標準治療のようなプロ選手になれるかどうか、臨床試験というテストで試されている最中のものがあらかただということです。

 その代表例のひとつが、重粒子線または陽子線などを使用した粒子線治療。

「切らずに治す」という惹句を、耳にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。

 メディアも盛んに取り上げ、多くの国民の関心が、体にストレスを与えない、このハイテク治療に向いているようです。しかしながら目下、従来の放射線治療を凌駕することを示した検証データは不足したままです。

■“治療は成功”

 放射線を使った治療は、治療装置やコンピューター技術の面で著しい革新が見られます。すなわち、放射線による臓器障害を減らしながら、がん病巣にできるだけ的を絞って「ピンポイント照射」できる技術力の進歩には瞠目するものがある。

 しかるに、そこへの注目ではなく、粒子線の方がまるで「万能治療」のように喧伝されることがもっぱらなのです。

 具体的には、鹿児島県指宿市にある「メディポリス国際陽子線治療センター」。

 ここは昨年6月から、乳がんに対する陽子線治療を臨床試験として実施し始めました。地元の南日本新聞(昨年10月24日付)は、大要こう伝えています。

〈1例目となった県内在住の60歳女性が計26回の陽子線治療を受け、そのあとすぐに仕事に復帰した。「痛みも副作用も全くない。抗がん剤とは天と地の差」と女性は話しており、センター長は「計画通りに治療は成功」としている〉

 とは言うものの、これは「成功」でも何でもなく、治療を行なったという事実に過ぎません。では、患者さんにとって本当の成功とは何か。治療後の5年ないし10年という長期に亘るアフターケアによって、再発がなく治ったことが確認されるときです。

 ですから、一時のパフォーマンスがうまく行ったから、「治る」ことが保証されるというのは早計。

■「Nature」からの物言い

 そのうえ、この粒子線の照射では、約300万円の請求書はたいてい患者さんに回ってきます。テストで満足の行く結果がすべて出揃うまでは、患者さんからお金を取らずに行なうべきではないでしょうか。

 さらに悪いことに、再生医療事業を経済政策の重要テーマに掲げる日本政府に、近刊の科学誌「Nature」から“物言い”がつきました。

 どういうことか。

 患者さんへの効果があるかどうかのデータが不十分なまま、開発から製造販売までの過程を焦っていないか。結果、有効性がしっかり検証されていない(効果がないかもしれない)テスト治療であるのに、患者さんから高額な治療費を徴収しやすくなっていないか。その点に疑義を呈するものでした。

「行政上認められている」ことが錦の御旗になるがゆえに、拙速は禁物なのです。

「特別読物 がんになればすがりたくなる『先端医療・先進医療・民間療法』のワナ――大場大(東京オンコロジークリニック代表)」より

大場大(おおば・まさる)
1972年、石川県生まれ。外科医・腫瘍内科医。医学博士。2015年、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科学教室助教を退職し、セカンドオピニオン外来を主とした「東京オンコロジークリニック」を開設。著書に、『がんとの賢い闘い方――「近藤誠理論」徹底批判――』(新潮新書)、『東大病院を辞めたから言える「がん」の話』(PHP新書)がある。

  • 2016年2月11日号 掲載
  • ※この記事の内容は掲載当時のものです

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